眠り姫に甘いキスを。

□第六話…「きみのことが、大好きです」
1ページ/8ページ

…地獄を見た。

というか泣きたくなった。

話すどころか、目すら合わせてもらえない。目が合ってもただあからさまに目をそらすだけ。

俺が「優貴」と呼んでも、さりげなく聞こえなかったように無視をする。

―もう俺泣くぞ。

――俺が嫌いなら、そうはっきりと言えば…。

そう思いかけて、泣きそうになるのを堪える。

騒がしい教室の中、俺は重いため息を吐いた。

「…め……め!…っ姫!」

「はっ!あ、な、なんだよ北川」

我に返って呼ばれた方を見ると北川が呆れたような顔で俺を見ていた。

早瀬と石田も「早くー」と声を上げている。

「―次、体育。早く着替えてかねーと遅れるぞ。」

「お、おー?」

北川はやれやれとした顔で「先いくからな。」と言う。

ぽつり、と静かな教室に俺は一人佇む。そこに優貴の姿は、もういない。

……一人になると、余計考えてしまう。

急いで体育館に向かって、授業を受ける。その時も考えるのは優貴のこと。

ほかの声が雑音にしか聞こえない。

…俺、笑えてる?…笑えて、ないよな…なんか引きつってるの自分でわかるもん。

優貴は俺の方は絶対見ない。俺は、優貴の方ばかり見て、ぼーっとしてる。

気がつくともう授業は終わっていて、先生の言葉が魔法のよう。

…こんなに目が合わなかった?

目が合っても、優貴は冷たい瞳で―…でもその瞳は俺すら見ていなくて。

辛い。悲しい。――本当に、嫌われてたらどうしよう…。

不安と変な焦りから授業が頭に入らない。ぐるぐるとマイナス思考が頭を回る。

…駄目だ、吐きそう。

…違う、センセーに宣言しただろ、今日、ちゃんと…告白、する…って。

……だけど。

〜〜〜〜〜〜っううううっ!

「おーい、姫ー。授業終わってんぞー」

「――っちっっっっがあああああああああうっ!!!」

「え?」

「は?」

「どうしたー姫っち?」

周りが不思議そうに俺を見る。その中に優貴はいない。

―そうだよ、なに考えてんだよ…告白する前から。

逃げ出したい、とか…やっぱり告白なんてしない方が…とか、逃げてんじゃねえよ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ