眠り姫に甘いキスを。番外編
□大切なきみを、
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俺――北川浩介(きたがわこうすけ)には、小さい頃からの幼なじみがいる。
それは、どうしようもなくマイペースで、へらへら笑う、早瀬笑弥(はやせしょうや)だ。
「おい! 笑弥! いい加減ゴミ出せ! というかちゃんと飯食え!」
ノックもなく笑弥の部屋を開けると、ベッドに寝転がる笑弥の姿。
「えー? めんどくさーい★それに浩介がしてくれるじゃんー。おかんおかーんー(笑)」
「……っ百歩譲っても父親だろーが!」
「えへへー。別に良いでしょー? あんま変わんないしー♪」
「……たく……ほら、今日もうちに食べに来いってお袋が」
「わーいいのー? やったー浩介のお母さんのご飯、おいしいんだよね〜」
えへへーと笑弥は笑って、ベッドの上でばたばたと足を揺らす。
「……埃たつからそれヤメろっ!」
「えへへーやだよーん♪」
そんな笑弥に俺はため息を吐く。
「……つーかさ、お前、本当やめたら? それ」
「……えー? 浩介には関係ないでしょー?」
「……あのな!」
「……それに、俺はただ、女の子とお話ししてるだけで、何もやましいことしてないよ?」
……本当に、全くだ。こいつがこういうことするのは、分からなくもない。
笑弥は、毎日違う女と自分の部屋で《話す》ことをやめない。ヒドいときは深夜まで、笑弥の部屋の電気がついている。
――小六の時、笑弥の両親は事故で他界した。……両親と一緒にいた笑弥は、奇跡的に助かって、両親は助からなかった。……笑弥は独りになった。
……笑弥は、両親が《死んだ》ということを聞いても泣かなかった。本当は俺のいないところで泣いてたのだろうが、俺の前では笑ってばかりいる。
――からからに干からびた、笑顔で。あの日から笑弥は、本当に笑わなくなった。
――その時からだろうか、笑弥が夜に女を入れるようになったのは。
(……たぶん、笑弥は寂しいんだ。独りきりで、この家に住むのは)
(……思い出の詰まった部屋に、《独りで》いるのは)
笑弥が連れてくる女は、いつも高校生や女子大生の、年上だった。
母親が恋しいのかもしれない。
……そんな笑弥の日常に、俺は少し心配になる。
「……あー分かったー。浩介うらやましいんだ〜」
「違ぇーよ! あほ。俺はなぁ……」
「……いいよ、別に浩介が心配するようなことは、絶対ないし」
笑弥は一瞬無表情に、冷たく俺を見て言い放つと、すぐにへら〜っと乾いた顔で笑う。
「なーんてねー♪」
「あのな……っ!」
「……大丈夫だって。俺、そんなつもりなんて一ミリもないし」
「……」
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