短編

□ぼくと、きみと。(前編)
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「な! ごめんって。でもさ、桜良も遊ぼうぜ。今度の土曜とかさ!」

「……遠慮しとく」

「つれねーの! ……まぁ、桜良らしいか!」
 桜良と呼ばれた少年―森水桜良(もりみずさくら)は、数秒なにを思ったのか、少年の方を見つめ、本来の目的である読書へと、目を移した。

「あー。俺がいるのに読書するとかひでー」

「……うるさい。僕は当初の目的を思い出しただけだ」

「……つまんないつまんないつまんなーい!!」

「――うるさいって、僕が言ったの、聞こえなかった?」

「…………。ごめんなさい……」

 少年はしゅん、と俯いて、それから一言もしゃべらなくなる。それでも、桜良の元を去ろう、という気にはならないようだ。

 染めていない焦げ茶色の髪は、少し固めていて、健康そうな少し焼けた肌は、少年の性格を物語る。少しネクタイを緩め、カーディガンのボタンは閉めない。

 いつも満面の笑みで迎える少年は反省したように沈んだ表情。

 満面の笑みの時に見える、八重歯は見えない。

(……本当、懲りないヤツだな……)

(……どうして、僕を離れないんだろうか)

(こんな僕といたって、つまんないだろうに)

「……桜良……」

 ぽそっと呟いた、今にも消えそうな泣きそうな声。

 その声に桜良は、居心地が悪くなってしまう。

 自分の邪魔をしたのはそっちなのに、こんな声を出すのは反則だ、と心の中で呟いて、桜良は本に栞をつけて、閉じた。

 その行為に、少年はぱっと明るくなる。

「……で? なに。杉崎」

「……っ!」

 杉崎と呼ばれた少年―杉崎灯悟(すぎさきとうご)は、静かにぱたぱたと両手を動かし、満面の笑みを浮かべる。

「……一応聞くけど、それはなんのジェスチャー」

 桜良は頭を抱えてため息をつく。

(本当、バカだよね、杉崎って)

「……っ!……っ!」

 ぽん、と思いついたようにプリントを出し、プリントの裏になにかを書く。

 書き終わったプリントを自信満々に桜良へと渡す。


 そこには、≪桜良がうるさいって言ったから≫とでかでかと書かれていた。

(……本当、バカだよね。いろんな意味で)

「……きみの動作自体うるさいんだけど」

「……っ!!!」

 ガーン、とショックを受けたように灯悟はまたしょんぼりとする。


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