パンドラハーツ short

□in your heart...
1ページ/2ページ





長い長い廊下に二つの足音が響く


一人は長身に長い銀髪と紅い眼
短剣と長剣を腰に下げて音を鳴らすことなく器用に歩く


その隣に小柄の短い金の髪の女性
深い青のドレスを着て優雅にゆっくりと並んで歩く


時々廊下ですれ違う屋敷の者達に軽く挨拶を交わし二人は静かに歩く

すれ違った屋敷の者達はその後ろ姿を微笑ましく見つめていた


そしてとある一室に入った二人


口を開いたのは鏡台前の椅子に座った女性



「どうだったケビン?」


聞くと男、ケビンは少し不服そうな顔をして答えた



ケ「…あぁ」



「………あまりお気に召さなかった感じデスカ?」



ケ「…いや、そういう訳ではない」



「せっかく父様と母様が手配してくださったのに…?」



ケ「…そうではなくて……」



はぁ、と深い溜め息をついたケビン




ケ「わざわざ私達の為に手配してくださったのも嬉しいのだが……」



少しもごもごと口の中で何か呟いて言葉を探しているようだ




「ワタシはね、」



言葉を遮るとケビンは女性を見る



「…………少し、やり過ぎじゃないかと思う…んだけど、どうかな?」




ケビンを見上げる目は少し不安そうだ


ケビンは小さく頷いた



ケ「私もそう思うのだが…貴族の令嬢となればあれくらい豪華な品揃えになるだろう」



「でもワタシは養子よ?」



女性は肩を竦めて困ったように言う




「今は貴族の令嬢と言えど、元はどこの馬の骨とも知れない不法侵入者デスヨ?」



ケ「お前は命の恩人だ、私の友も助けてくれた」



鏡台の前に座っている女性に歩み寄ると肩の上で切り揃えられた髪に手をとおす



ケ「キミの経歴には興味あるがそれで追い出す理由はない」



「…ぅん?」


分かりにくいが、責めているわけではないという意味でケビンの優しさだ
嬉しいのだがそれを恥ずかしくて素直になれずわざと理解できないフリをする



ケ「……つまり、キミが何者だったか関係なく私はレインを愛している」



見上げた眼は愛しそうに細められ髪に触れていた指が頬を撫でる

心臓が煩く顔も熱くなり思考がシャットダウンしていく


「…もっ、モノ好きッスよねアンタはっ」



ケ「そうか?私に興味を持つレインがモノ好きなんじゃないのか?」


「違いマスっ」



くつくつと笑う相手と熱い顔で言い合う



……でも、まさかこんな日が来るなんて思いもしなかった


元はワタシはココで生まれ育ったわけじゃないから文化も常識も知らない


ワタシがこの男に恋したのは会う前から


ここじゃない世界からずっと恋してた
所詮はトリップというやつか、寝る前に最終巻を読んでいたらいつの間にかアヴィスにいた
そこでチェインのユニコーンと契約してアヴィスから出るとケビンのいる屋敷、シンクレア家だった訳だ

その時チェインによって重傷を負ったケビンとその上司にあたるケビンの親友を助けたところ、養子にこないかと誘いを受けた

なんとも不思議な貴族だと思う

いきなり出てきたくせ者、しかも違法契約者を養子に呼ぶのだ
最初は何か企んでいるのかと警戒しながら誘いを承諾したが何の企みもなく本当の家族のようにしてくれるシンクレアの人達に心打たれた

ケビンと恋仲になったのは忙しく過ごした翌年だった
それからお互い何も進展がないまま3年も経った
シンクレア家の公爵とその夫人には娘のように可愛がられ、公爵と夫人の娘フランには姉のように慕われ、ケビンの親友、ハーバードとレイピッドとも仲良くなり…
ケビンとの婚約が決まった


今日はその式場の下見に行っていたのだ


漫画の世界にトリップして漫画のキャラクターと結婚するって…


誰が想像しただろうか?



でも婚約が決まった今年は幸せだけどすごく不安で悲しいものでもある



なぜなら今年でケビンが24歳になる


ケビンがアヴィスに堕ちるのは24歳…


という事は今年でシンクレア家は……………



「…………ねぇ、ケビン」



「……何があっても、離れろって言われても一生ついて行くからね」



その恥ずかしいセリフに言った本人以上に顔を赤くしたケビンに笑うしかなかった



そして3ヶ月後




馬車に揺られて30分くらい


その間ずっと窓の外を眺めているフリをした


目の前にはケビン
隣に座りワタシの腹にずっと抱きついているのはシンクレア公爵夫妻の一人娘のフラン、ワタシの義妹


式は明日、今日は特別な買い出しに出ている


その特別とは公爵夫妻とフラン、ケビンの親友2人しか知らない極秘情報だ


本当はケビンに一番に教えようと思ったのだが…恥ずかしくて言えない
我ながら情けない…

夫人からはただワタシとフランの買い物に護衛も兼ねてパートナー、夫として行きなさいと言われたケビン


来てくれるのは嬉しいがケビンも一緒に来てもらうと困ることが………


ーーー店に行ったら流石に分かってしまうだろうか…?


緊張でうるさい心臓を抑えるように胸に手を当てる

ちょうど賑やかな街並みに着き、馬車の扉が開くと活気な声が聞こえる

先に降りるケビンの後ろ姿を見つめると胸の内側が熱くなり頭が痺れた

でもそれも一瞬の事で振り向いたケビンの差し出される手

実はケビンと馬車に乗ることが結構好きだ

目眩がするほど彼を近くで見れるし考えられる、感じられるから


「ありがとうケビン」


そう言うと照れくさそうに微笑んでくれる貴方が好き
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ