Pandora HeartsーLongー


□初日の試練
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翌朝……

AM09:00


ーーーコンコン

レ「お嬢さん、失礼しますよ」

昨日から動けるとはいえまだ怪我が治っていないので容態を確認しに来たレイピッド

レ「おはようござ………、お嬢さん?」

だが、部屋に彼女の姿は無く部屋を間違えたかともう一度確認するが間違っていない
風を感じたレイピッドは窓を見る
カーテンの開かれた窓は全開で、朝の心地よい風を通していた

ーーーバタンッ!

レ「!?」

彼女の部屋でもぬけの殻となっているベッドを見つめたまま考え込んでいた時、後ろのドアが勢いよく開かれた

ハ「おい、聞いてくれ!」

かなり慌てた様子のハーバードを見て一大事だと気付く

レ「ハーバード!なにがあった?」

ハ「それよりレイピッド、お嬢さんは?」

レイピッドの後ろの空のベッドを見る

レ「それが、いないんだ…」

ハ「何!?」

窓を見たハーバードは何か考え込む

レ「そんなに慌てて何があったんだ?」

ハ「あぁ、それが…ケビンと朝、手合わせの待ち合わせをしていたんだが時間になっても来なくてな
今までそんなことなかったから心配になって様子を見に行ったんだが、いなかったんだよ」

レ「ケビンまでいなくなったとは………
もしかしたら、すれ違いで来ているのでは?」

ハ「いや、その後もう一度確認しに戻ったんだがいなかった
…ケビンの部屋も同じように窓が開けっ放しだったんだよ、あの真面目なケビンが窓を開けっ放しにするなんて考えられないだろう?」

レ「………もしや、お嬢さんを追って行ったのでは?」

ハ「しかし、何処に行ったって言うんだ…」

レイピッドはベッドに触れるとチェインの能力を使い確かめた
光の粒が再現していく
光の粒で再現された彼女を追って二人は開けっ放しにされた窓から飛び出た


AM00:30


「………暗い」

一番最初に視界に映ったのは闇

どうやら早くに夢から覚めてしまったようだ

カーテンが閉まっているため部屋の中は暗い
今の季節は冬に近いのだろうか…夏や春ならもう少し明るいのだが…

「…何故カーテンを閉めた、クソがっ…」

暗闇の恐怖を押し込め悪態をつく
素早くベッドから降り、カーテンを急いで開ける

「綺麗…!」

月が雲に隠れて暗い外は少し強めの雨が降っていて少し肌寒い

「雨だ、嬉しいなぁ…」

窓を全開にして雨を眺めながら鼻歌を歌う

「皆が嫌いだからこそ雨が好きなんだよねぇ…」

だって独り占めできるから、なんてことは親友にも言ったことない

「…一度襲われかけたあの時も雨だったなぁ、いやぁ…あれはナイスサバイバルだったよ」

高校のとき、一度襲われかけたことがある
襲ってきたのは自慢したがり屋の秀才ボンボン君
秀才、といってもワタシには敵わなかったけどね…www
常に学年一位のワタシに対して勝手に嫉妬して何かと難癖つけてきたよ
で、確か教室に忘れ物を取りに行った雨の日にいきなり後ろから羽交い絞めにされて首とか頬、耳まで舐めてきやがった
そのまま制服の中に汚い手を入れてきやがったから脛を蹴ってやったよ、そのまま容赦なく鳩尾一発KOで何事もなかった様に忘れ物とって帰った
襲われたことに恐怖はなくて、ただ気持ち悪い、気色悪いって思った
あれから何事もなく普通に男子とも会話できるし何の支障もない
けど、見知らぬ男に後ろから触られたりある程度近づかれたりするのは怖くなった
異様に警戒してしまう

「……まぁ、でもそれは"音霧紅"だから、今のワタシは全くの無関係
ここにいるワタシは"音霧紅"の全てを知っているただの人になった訳だ
"音霧紅の人生を持った人"だな…
ここにいる家も家族も名もないワタシを"音霧紅"の親友や家族、友達は知らない
ただワタシが知っているだけのこと、いわばあちらからすれば赤の他人だ
赤の他人から心配されても気分は良くない

だから、ワタシが考えることましてや心配などしなくていい
考えるのは"音霧紅"であるべきなのだから…」

窓枠に乗り出し、頭に雨を浴びる

「………絵描きたい」

ベッドの横にある机の引き出しを開けてみると紙があったので机の上のペンを取り窓の前まで椅子を持ってきて机代わりに描く

「何描こうかなぁ…、あ、そうだ!
ブレイク描こう!」

ささっと適当に下書きを描く

「んー、小さい絵しか描けないからなぁ…これだけだと寂しいな;
あ、じゃぁケビンの時代とコラボすればいいんだ!
二人だけだとやっぱり悲しくなっちゃうからケビン時代にはレイピッドとハーバード、あとサーガさんにリリネットさんにフランちゃん!
で、ブレイクのところにシャロン、ルネット、オズ、アリス、ギルバート、オスカーさんも!
あ、アヴィスから出てきた頃も入れよう!
ケビンにシェリー様にシャロンにルネット…いやぁ、みんな若いねぇw」

人物を増やしていく、下書きも増え、紙いっぱいになった

「うん!賑やか、だいたい埋まった
それで皆笑顔でご対面しよう!」

そうして鼻歌を歌いながら本描きを始めた

AM01:30
それから一時間後、

「……雨があがるな」

雨音が弱くなっていくのを耳にしながら描く
絵は八割がた終わってきている
キリの良いところで手を止め、固まった身体を伸ばす

「…あ、」

ふと、目の前の外を見ると空が白み始めていた
少し薄い霧がかかっている中、降った雨が草や木、全てを光らせていた
外に出たい衝動に素直に従い、紙とペンを掴んで窓から飛び出す

「わぁっ…!///」

外に出て裸足から伝わる濡れた草の感覚や緑と雨の混ざった匂い、目の前に広がる雨の粒で光り輝く自然の風景に感動を隠し切れない

「綺麗、」

もっと他の場所も見たくて走り出した
雨粒に濡れ美しく上品に咲く薔薇の道、屋敷を出て目の前の林の中へ突っ走る
木と草、雨、土の匂いが気分を高ぶらせる

林の奥に行くと湖があった
林の中に木に囲まれるようにしてある湖は白み始めた空を鏡のように映して輝いていた

そういえば、風呂に入っていないからべたべただ
でもまだ傷が治っていないから入れない、

「……足は怪我してないや」

着流しを大胆に太腿まで上げ縁に座り膝から下だけ水に浸かる

「冷た〜い、気持ちぃ〜…」

久しぶりの水に浸かり気分が晴れやかになる

「絵を描くには最適っすよ♪」

膝の上で絵を描き始めた

「できたっ、これは傑作ですなっ…!」

完成した絵を眺めていると鳥の声が聞こえた

ーーーピョロロロ……、ピピ

「…小鳥か、和むわぁ〜」

立ち上がり、着流しを直すと後ろから聞こえる鳥の声の方を向く

「珍しい、青い鳥だ…」

すぐ見える枝に止まっていた鳥は青い翼を持っていた

「…おはよう、小鳥さん良い天気だね」

小鳥に話しかけながら右手を上げ、止まってくれないかと期待する

ーーーピピッ

「わぁお…っ!///」

どうせ来ないのが当たり前だろうと思っていたのに小鳥は右手に止まってきた
試しに少し降ろして自分と距離を近くしても鳥は逃げない

「キミは人間が怖くないのかい?
ふふっ…よくそれで自然界の中で生きて来られたね」

ーーーピピッ

小鳥は小首を傾げこっちを見る
まるで小鳥と会話しているようだ

「青い鳥は幸せを運ぶんだって…、キミはワタシに幸せを運んでくれるのかな?」

ーーーピピッ

小鳥は小さく跳ねる
くすぐったくて笑いがこぼれる

「…ちょっと、身体を動かしたくなってきた
ワタシね、もうかれこれ十六日くらい動いてないんだ…流石に動きたいころだろ?
ねぇ、この場所を知ってたら良い所教えてくれない?」

ーーーピッ

すると、小鳥は言葉が解かったのか近くの木に移動するとこちらを見ている
まるで道案内で待っているかのように…
まさかそこまで都合は良くない、と思ってそのまま動かないでいた
しばらくすれば飛んでいくだろうと思っていたのに小鳥はまだこちらを見てじっとしている

「…行ってみるか、」

試しに小鳥の近くに行くと小鳥はまた近くの木に止まってこちらをじっと見つめる

「本当に、案内してくれるの…?」

ーーーピピピッ

小鳥はその場で跳ねて急かす

「…ありがとう、」

それから小鳥に着いて行くと広めの場所に出た
案内が終わったのか小鳥は肩に乗ってきた

「すごい、訓練するには最適だね
ありがとう、すごいね、この場所気に入ったよ
ありがとう、小鳥さん」

ーーーピョロロ

小鳥は飛んでいった、飛んでいた後を眺めながら夢のようだと楽しさと嬉しさの余韻に浸った

「よし、霧が少し晴れた今なら最適だ
チェインの力を使わずに戦えるようにしとかないと…」

ユニコーンのコピーの能力で武器を使うのも良いが、今回のようにもし使いすぎてしまったら記憶を失くし兼ねないので身を護れるようにはならないといけない

「ちょうど弓道やってたから弓が欲しいけど、和弓は流石に無いよな…
じゃぁ、作るのみ!そうと決まったらさっさとやろうか!」

この場所には石や木の棒、蔓と色々揃っている不思議な場所だ
和弓はアーチェリーより長いし扱い方も持ち方も全く違う
1m60cmくらいの太目の木の棒に長めの蔓、石を2、3個と木の葉を何枚か集めて原始的な道具で出来たのは色を塗れば殆んど和弓と変わらなかった

「…今日は調子が良いな、最高傑作だよっ!
…でも弓は遠距離でしかも動けない、近距離じゃ無理だもんな……あっ!」

出来た練習用の弓を更に工夫していく

「でぇきたっ!ふふふ、これで近距離戦もできる!」

和弓は真ん中より下の部分を持つのでそこ以外、弓の外側の上と下は端まで刃の様に尖らせた
あと矢も少し変えて横幅を広くした刀の様にし、柄の底に溝を作れば完成
矢を入れるための筒も作り腰に下げる

「これでよしっ、あれからそんなにかかってないな…空があまり変わってない
時間はまだある、後で戻れば良いや」

素振りや蹴りなど体術も練習した後に適当に目に付けた木で実際に斬ってみた

ーーービュッ

弓を回しながら一斬り、その後直ぐに刀矢で一斬り

「練習用とは言え、扱い方に慣れれば上手く斬れるものっすよ♪」

木には×印が深く彫られていた
しばらく斬って弓と刀矢の刃を確認

「まだ使えるな、これは結構長持ちするぞ
よし、後は実際に射ってみるか………と、言いたいのだが…」

和弓は射った時女性は胸が当たってしまうので胸当てをつけるのだが、胸当てを作れるような材料は見当たらなかった

「………お、」

しばらく考えて閃き、腕の包帯を解く

「うん、若干傷は塞がってきてるし大丈夫でしょ」

その包帯をさらし代わりにし、距離を離して斬り付けた木を狙う

ーーー狙うは真中、息を吐いて、左右のバランス、まっすぐ伸びて…

ーーーヒュンッ、ドスッ

「うん、さらしさえ巻けば胸に当たること無いから射てる、狙いも問題なし
やっぱり本番はこれからだよねぇ…よし、標的はコイツ、それまで通る木を敵としいかに倒せるか…始めは湖の見える所から」

木に刺さった刀矢を抜けば×印の真中に刺さった跡は横向きの蝶のシルエットに似ていた
湖が見えてきた所で止まる

「いざ、尋常に………」

合図に備えて構える

「勝負っ!」

合図と共に一気に走る
通る全ての木に斬り付けながら走り抜ける
斜め右の標的に突っ込み、目の前に来たら瞬時に身体を捻らせ懐に入り刀矢で下から上へ深く一斬り、手の中で柄を持ち替えて横に薙ぎ払う
斬り終えた木を蹴って次の標的に向かう
少し前から飛び掛り降下の勢いを利用して一撃で終わらせその木の枝に飛び乗り少しはなれた標的に向かって突っ込む
勢いを止めず次々に斬り付け最後の標的が見えたところで斬り付けた木の枝に飛び乗る
爪先で立ち弓を引く、素早く狙いを付け射る
それと同時に回り込み、懐に入り弓で二撃

「一本っ…!」

乱れた息を整え来た道を戻りながら斬り付けの具合をみる

「どれも全て致命傷以上だし…んー、まぁこんなものか?」

湖の所に戻り、ゴムが無いから着流しの紐を解いて軽く髪を纏め顔を洗う

「ふはぁっ、さっぱりした!」

着流しを直しさらし代わりにしていた包帯を解いた時

ーーーカサッ…

「…!」

微かに草を踏みしめる音が聞こえ刀矢に手をかけ構える

ーーーちょうど目の前の辺り…距離はそれなりにある

素早く弓を引く、予測したところに狙いを定め、新たな動きがあるまで止まる

ーーーカサッ…

また微かに草を踏みしめる音がした、がそれ以外は何の動きも無い

「………っ、」

いい加減引いている右腕の傷が痛くなってきた、傷が開いてしまうと心配しながらまだ狙いを変えず止まる

ーーー…まぁ、さっきさらし解いちゃったから動きがあったところで射てないけどね
弓と刀矢で接近戦するしかないか…

ぶち、と嫌な音がして傷が開いた
腕から生温かい液体が伝う感覚

ーーーガサッ

ケ「何しているんだっ!」

「うぇっ!?ケビン!?;」

狙っていた木の陰から出てきたのはケビンだった
慌てて弓を戻す

ケ「傷が開いてしまったじゃないか、こんな状態で何を考えているんだっ」

がしり、と右腕を掴まれ詰め寄られる

「…ぇ、何でここに?いつから?」

ケ「夜中に窓から飛び出たのを見かけて追ってきたんだ」

「そんな最初からいたの!?;」

全く気がつかなかった、ショック

ケ「気づかなくて当然だ、気配を消していたからな」

腕を掴んでいる手を離してもらい、武器を置く

ケ「これは?」

「和弓だよ、ちょっとアレンジしたから変わってるけど長さと形はだいたいこんな感じ」

ケ「自分で作ったのか…随分な長さだな」

「和弓は長弓類だからね」

作った弓を興味深そうに持つケビンに説明しながら刀矢と筒の側に置きっぱなしの絵を見つけた

「あ、そういえばケビンこの紙見てなーーー」

ーーーガササッ

レ・ハ「お嬢さぁん!!」
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