figure skating

□ライバルでもあり恋人
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香織は全日本選手権を前に曲を悩んでいた。

「コーチ、内容は同じで曲だけ変えたら変かなあ」

と、香織が呟きながら音楽を聞いていた。

「曲をシーズン内で変える事はあまりないわよ?」

「うん、でもさ。せっかく日本でやるんだしちょっとしたアクセントになるんじゃないかなって」

香織は曲を選択して、リンクへあがった。

「コーチ再生してくださーい!」

コーチが再生すると、ゲームのサントラだった。

<これ香織の好きなゲームのサントラか>

と、コーチが思っていると、多少のアレンジをしつつも香織はまるでこの曲を何度も滑りこなしているかのようだった。

滑り終わった香織がリンクサイドに戻ってくる。

「どうでした?」

「ふむ。いいかもしれないが使用許可を得てからの方がいいかもしれないな」

「やった!!!コーチ、お願いできますか??」

「仕方ない奴だな」

コーチは頭をくしゃっと撫でた。

それから香織はひたすら氷の上を滑っていた。






そんな姿を見つめる人影がスッと現れた。

<楽しそうに滑るなあ>

リンクサイドへやってきた僕は香織の演技をじっと見つめていた。

流れている曲が彼女の好きなゲームのサントラである事に気づいた僕は思わず笑ってしまった。

<どこまで好きなんだか>

と、曲を聴きながら彼女がやっていたゲームのシーンを思い出していた。

そのイメージに合うような彼女の演技に僕はそっとリンクに降り立った。

僕がリンクに降りた時、香織はやっと気が付いた。

そして、ゆっくりと視線で合図すると、二人は飛び上がりトリプルルッツを決める。

その後ペアの演技のように二人だけで滑っていると、彼女のコーチが戻ってきていた。

「結弦!」

「香織、曲変えるの?」

手を差し出すと、香織はそっと手を重ねて仲良くリンクから上がる。

「うん、全日本だし、なんかちょっと変えてみたくって」

にこっと微笑んだ香織は全日本に向けて目が輝いていた。

「それにさ、真央さんと直接対決出来るんだもん…気合入れたくって」

そう言ってベンチに座った香織に、コーチが言った。

「許可ももらえたけど、もっと嬉しい知らせがあるぞ?」

「え??」

「祖堅さんがSP用に編集してくださるそうだ。プログラム自体は殆ど変わらないから前の映像を添付して送っておいたからちょうどいい曲にしてくれると思うぞ」

コーチの言葉に香織は一瞬固まり、大声で叫び喜びを表した。

「ほんと、香織はエオルゼア厨だよね」

クスクスと笑う結弦に、香織は頬を膨らませていた。

「結弦のプーさん厨よりましだもん!!」

そういいつつも彼の隣に座り直した香織は嬉しさで顔が破顔していた。

「僕も頑張らないとな…」

「結弦はただ、自分の演技を楽しむ。自分の演技に集中する。それでいいと思うな」

にこっと微笑みそう言った彼女に僕は肩の力が抜けたのを感じた。

「ほんと、香織はいつも欲しい言葉をくれるよ…」

ぎゅっと抱き着いてきた結弦に、香織は笑いながらも彼に体重を預けた。

「ふふ、甘えたなチャンピオンだね?コーチたち」

と、香織が言うと二人のコーチは笑っていた。

「香織、チャレンジするならトリプルアクセル入れるか?」

と、コーチの突然の言葉に香織は頷いた。

そこには闘志に燃えた目をしている香織がいた。

「僕も負けてられないな」

そして二人は全日本選手権へ向けて調整を始めた。





北海道 真駒内アイスアリーナ


「ドキドキする」

北海道入りして、香織は会場前にやってきた。

そして、一礼した後香織は練習用のリンクではなく、一般向けのリンクへ向かった。

一般客に交じってゆっくりとリンクを周回する香織。

「ちょっと空いてきたかな」

真ん中の空いているスペースで、コパルソリーをやったり、スピンをやってると、周りが空いてきたのでシングルジャンプ飛んだりしていたらばれてしまった。

「あ、やりすぎたかも」

と、思いつつもサービスしてからリンクを後にした。

するとツイッターとかでその写真と動画が上がっていた。

そして香織は怒られていた。

けど、楽しそうに滑っていた香織は全日本に向けて最終調整を頭でシミュレーションしていた。


そして迎えた男子ショート。

こっそり結弦の応援に駆け付けた香織はカメラの死角でこっそりと逢引きしていた。

「結弦。リラックスだよ?」

「うん」

ぎゅうっと抱きしめる結弦に、抱きしめ返して香織は背中を撫でた。

「楽しんできて?ちゅ」

そっと結弦の唇に自分のを重ねると香織はぎゅっと抱きしめて彼の背中を押した。

<顔にやけそう…>

結弦は手で口元を覆いながら、6分間練習の為にリンクへ向かった。


香織は客席へ移動して最前列で演技を見守っていた。

結弦の順番になり、最後まで見届けてからそっとリンクを後にした。






練習で借りているリンクへ向かった香織は準備体操を念入りにしてからMP3をセットしてリンクへ。

深く深呼吸を繰り返して、位置についた。

冒頭のダブルアクセルをトリプルアクセルに変更して、足変えコンビネーションスピン。

曲調変わってトリプルルッツ、ステップシークエンス、フライングキャメルスピン。

曲の終盤にトリプルフリップ+トリプルサルコウコンビネーションジャンプ、最後にレイバックスピンでフィニッシュ。

最後は祈るように手を組んで止まる演出。


演技が終わると拍手がリンクサイドから聞こえた。

「結弦」

声をかけると、彼は真っ直ぐリンクへ降り立った。

「トリプルアクセル入れるんだね」

「うん…世界選手権行くにはやるしかないから…」

強い意志を持った彼女の目は、とても輝いていて綺麗だった。

「香織」

「ん?なーに?」

ぎゅっと抱きしめた結弦に香織は彼の顔を見上げた。

「結弦。今日の失敗は明日の成功。明日は明日の風が吹くでしょ?」

「うん…」

「結弦、自分の全てをさらけ出したらいいんだよ。持ってる全てを出せば悔いは残らない」

彼の背中を撫でながら私は続けた。

「失敗したとしても次の課題だし、次に調整していけばいい」

結弦が言ってくれた言葉だよ。と香織が微笑む。

「そう…だね…本当に香織はいつも欲しい言葉をくれる…ありがとう」

「ふふ、いつも結弦にいっぱいもらってるもん」

ぎゅうっと抱きしめる香織に結弦も嬉しそうだった。

「明日頑張れる?」

「うん、香織のおかげで頑張れそう」

「なら…終わったら…二人でゆっくり…しよ?」

ちょっと照れくさそうに言った彼女に、僕は彼女の真意が理解できた。

「明日の事なんか気にしないで、香織を今めちゃくちゃにしたいくらい愛したい」

結弦の言葉に香織は驚きつつもぎゅうっと抱き付き、顔を隠す様に肩に埋めた。

「全日本終わってから…じゃないとだめっ」

頬を真っ赤にした彼女が可愛くて仕方なかった。

しばらく二人で抱き合ったままゆっくりとリンクを散歩していると香織が言った。

「ねえ、SEIMEI滑る?」

「うん」

スマホの音量を最大にして、音楽をかけた。

小さい音だけど、二人には関係なかった。

最後まで滑り終えた結弦は、満足気に微笑んだ。

「落ち着いた?」

「うん、ありがとう」

「明日、お互い頑張ろうね?」

「うん」

二人はゆっくりとリンクを後にして、明日のための休息を取るためにホテルに戻った。
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