誠凛高校

□ダメ…ですか?
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次の日もまた雨だった。
部活が終わり帰ろうとしたら、木吉先輩に呼び止められた。
「降旗ワルい、今日もいいか?」
「ん?」
何のことか分からず首を傾げていると、木吉先輩が傘を指差した。
あーなるほど………って えー!
もちろん俺に断る理由はないが、またこの展開に俺はドキドキしはじめた。
「いいですよ」
「スマンな、助かる」
昨日と一緒で木吉先輩が傘を持ってくれた。

木吉先輩の家まで送ると、またどら焼きをくれた。
「じゃ また明日な」
「はい」
あれ?これ昨日と一緒だ。
やっぱり木吉先輩の握っていた傘の柄の部分は暖かかった。

それから雨の日に同じことが何度か続いた。
俺にとっては嬉しいのだが、ずっと引っ掛かってるひとつの疑問が。
そして今日は雨が降っている。
疑問を解決するには今日しかない。
「降旗〜またいいか?」
案の定、木吉先輩が頼んできた。
「いいですよ」
「いや〜ホントに助かるよ」
俺は学校を出て暫く歩いたとこで、木吉先輩に疑問をぶつける。
「木吉先輩、ひとつ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「今日って朝から雨降ってましたよね。どうやって学校に来たんですか?」
「歩いてだぞ」
「いや、そういう意味じゃなくてです」
キター 木吉先輩の天然ボケ発言。
最近一緒に帰ってるから、少しは慣れてきたけど。
「ならどう言う意味だ?」
「雨の中傘も指さずに歩いて来たんですか?」
「えっとだな〜傘は…」
「また壊れたんですか?それとも誰かに取られたんですか?」
これは以前木吉先輩が言ってたことだ。
最初は信じていたが、そう何度も壊れたり、取られたりするのはいくらなんでも変だ。
俺はジーっと木吉先輩を見つめる。
「傘は……」
「傘は?」
「スマン。実は傘持ってるんだ」
木吉先輩が鞄から折り畳み傘を取り出した。
「やっぱり」
「あり?バレてた?」
「何となくですけど。もしかしてずっとそうだったんですか」
「え〜っと〜…」
「木吉先輩」
「ワリィ。あっでもあの日はホントに傘無かったんだぞ」
俺が図書当番だった日か。
「でも何でそんな嘘ついたんですか」
「降旗の隣って居心地よくてさ」
「えっ?」
「今までゴメンな。迷惑だったよな」
木吉先輩が自分の傘を取り出し、俺の傘から出て傘を指し歩き出した。
「じゃ また明日な」
何だか急に隣が寂しくなった。
と同時に聞いたことを後悔した。
もうあんな風に一緒に帰れないんだ。
……嫌だ
そんなの嫌だ。
俺は傘を放り出し、木吉先輩に駆け寄った。
「木吉先輩 待って下さい」
俺は木吉先輩の腕を掴んだ。
「降旗?」
「ダメ…ですか?」
「え?」
「雨じゃないと一緒に帰ったらダメですか?俺は全然迷惑じゃありません。普段も一緒に帰りたいです。もっと木吉先輩と一緒に居たいです。木吉先輩のこともっともっと知りたいです。だって俺は―」
そこまで言って木吉先輩を見上げた俺はハッとした。
何やってんだろ。
ほら木吉先輩が困ってる。
「ス スミマセン。今の忘れて下さい」
俺は木吉先輩の腕を離し、走り出した。

近くの公園の休憩場に駆け込み、ベンチに座った。
最低だ。
明日からどんな顔して木吉先輩に会えばいいんだよ。
静かな公園には雨の音と、休憩場の屋根から伝う滴の音だけしていた。
俯いている俺の頭にタオルが掛けられたんで顔をあげると、そこには木吉先輩が立っていた。
「濡れたままだと風邪引くぞ」
「木吉…先輩…」
「ゴメン、降旗が怒るのも当然だよな」
違う、違うんです。謝らないといけないのは俺なのに。
「傘ここ置いとくな」
俺が放り出したの拾って来てくれたんだ。
俺は返す言葉を必死で探していた。
「降旗?大丈夫か?」
何て言えばいい?どうすればいい?
「…はい…」
俺は何とか声を絞り出した。
「えっと〜 明日からまた一緒に帰ってもいいか?」
「えっ?」
「降旗との話し楽しくてさ。でも何かきっかけがないと、一緒に帰ろうって言いにくかったんだ。スマン」
「俺で…いいんですか?」
「ああ」
俺が木吉先輩を見上げると、あのいつもの優しい笑顔で答えてくれた。
「木吉先輩…さっきはスミマセンでした。自分勝手なことばかり言って」
「もう気にするな」
木吉先輩が俺の濡れた頭を拭いてくれた。
その大きなてで。
「今日は俺が降旗をバス停まで送って行くな」
「はい」
俺たちは別々に傘を指し歩き出した。
さっき感じた寂しさはなかった。
だってまたこうして木吉先輩と歩いているから。



【終】
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