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□禁断の関係(前)
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−Minami side



今日は握手会だ。

恒例のファンとの交流イベントだが私にとって今日の握手会はいつもとはちがう。

とりあえずその時がくるまでいつものように落ち着いていこう。

スタッフに呼ばれ席を立った。






握手会ではファンへの感謝を忘れずに1人1人丁寧に対応する。

初めてきたひとにはまた来てもらえるように笑顔を満開にし、いつも来ているファンには友達のように親しく接する。

笑顔で次々と来る人に手を振る。

しばらくすると今日一番楽しみにしていた子が握手にきた。

「ふみちゃんー、待ってたよーう」

「たかみな久しぶりー!」

ニコッと健康的な笑顔を見せる彼女は昔からずっと握手にきてくれる常連さんだ。

「久しぶりやねー。最近どしたー?」

最近握手に来なかったから少し不安だった。

「勉強忙しかったのー」

「そっか。まだ中学生だもんね」

「会いたかったー!」

「ありがとねー」

「今日は久しぶりだからいっぱい券取ったからまた来るね!」

剥がしの人が時間でーす。と言った。

「おぅ。待ってるよ」

手を振ってふみちゃんは帰った。

久しぶりにみたふみちゃんは相変わらず元気いっぱいで安心した。




次の部の前の休憩時間。

私はペンをとり、紙切れに一言書き込んだ。
書き終わったそれをくしゃっと丸めてポケットにつっこんだ。

用意は整った。

うまく渡せるようにと心で祈りながらブースへ向かった。









−Fumi side



久々のたかみなはかわいかった。

今日は珍しく帽子を被っていなかった。

はぁ、かわいいな。

握手がおわり他の人と同じようにレーンからにやけながら掃けた。

かわいすぎてにやけちゃうよ。

2部の握手が終わりフリースペースの友達の所に戻ると友達も握手が終わったみたいで座り込んでスマホを触っていた。

「ただいま!」

「おかえり!」

友達は私の声に気づいて顔をあげた。

「たかみなどーだった?」

「帽子してなかった!かわいかった!」

「え、まじ?帽子してないとか!」

「まじまじ!」

「ゆーちゃんは帽子してたよ!」

「まじか!うわー、可愛いんだろな」

2人で久々の握手を語り合うと、あっという間に時間が過ぎた。

「あ、もう私帰らないと」

友達が時計をみて慌てて帰り支度をはじめた。

「もう帰るのー?」

「券ないし、これから塾なんだよね」

「そっか。塾頑張って!またね」

「うん!今日はゆーちゃんとふみちゃんに会えて良かったー!じゃあねー」

友達がいなくなり私1人になった。

残りの券は4部と5部だけだ。

会いにいくか。

今度はなに話そうかなぁ。

荷物をまとめてレーンへ向かった。


レーンに向かうと先ほどより列が長くなっていた。

さすがは総監督。

並ぶのは疲れるが人気が衰えていないのはファンとしては喜ばしいことだ。

話す内容を考えているともう握手ができるところまできていた。

やばっ、全然はなしまとまってないよ。

前の男の人が終わり私の番になった。

「また来たー!」

「やほー、ふみちゃん」

たかみなの顔が笑顔でいっぱいになる。

「ごめんー、なに話そうか考えてたんだけどふっとんだー」

「あはは、よくあるよね。気にすんなぁ」
「そうだよね!たかみなに会えるだけで十分だよね」

「嬉しいこといってくれるやんかぁ」

そう言って私の脇腹をつつく。

「いたっ。なにすんのー。ひょっとして照れてるの?」

「ち、違うわ!」

「やっぱり照れてるんじゃん。たかみな可愛いー」

「やめろぉぉ」

「ははは、たかみなおもしろいー」

「おもしろがるなー」

「あ、これでね、最後なんだー。だからまた次来れるのいつかわからないのー」

「まじか…」

と、たかみなが手を離しポケットに手を入れた。

「だから今日はとっても楽しかったよ!照れみなもみれたし!」

「私も楽しかったよ。また来てよ?」

上目遣いでそう言ってきた。

「もちろん!たかみな大好きだもん」

「約束だよ?」

たかみなが再び握手をした。

「ん?」

手を握ったときたかみなの手の中になにかが入っていた。

お時間ですー。

スタッフの声が聞こえ、肩に手がかかる。
「たかみな、これ…」

手を離すときに私の手にそれをねじ込んだ。

スタッフは気づいていない。


剥がされる私にたかみなは唇に指をあてシーっとやった。

「またね!」

「う、うん…ばいばい」

そうして私はブースの外に追いやられた。








−Minami side



ポケットにそれを忍ばせてブースに向かった。

また大勢の人と握手を交わしつつ彼女が来るのをまだかまだかと待ち続けていた。

しかし、なかなか来ない彼女に私は焦燥に駆られた。

そして終わりにさしかかり落胆しかけたとき、ついに彼女がやってきた。

安堵につい顔が綻ぶ。

良かった…。

「また来たー!」

「やほー、ふみちゃん」

「ごめんー、なに話そうか考えてたんだけどふっとんだー」

彼女は悲しいそうな顔をした。

「あはは、よくあるよね。気にすんなぁ」
「そうだよね!たかみなに会えるだけで十分だよね」

そう言ってあげると笑顔が戻った。

嬉しい一言を言ってくれた。

照れ隠しにふみちゃんの脇腹をつつく。

「いたっ。なにすんのー。ひょっとして照れてるの?」

「ち、違うわ!」

「やっぱり照れてるんじゃん。たかみな可愛いー」

にやけ顔でふみちゃんは私の顔をじろじろみてきた。

「やめろぉぉ」

「ははは、たかみなおもしろいー」

「おもしろがるなー」

ちょっと拗ねた顔をすると彼女が切り出した。

「あ、これでね、最後なんだー」

最後…今しかない。

手を離しポケットに手を入れそれを手の中に忍ばせる。

最後の会話をしていると、お時間ですー。スタッフの声が聞こえた。

「たかみな、これ…」

手を離すときにふみちゃんの手にそれをねじ込んだ。

良かった、スタッフは気づいていない。

「またね!」

「う、うん…ばいばい」

ふみちゃんは驚きで目を見開きながらブースを去った。


やった…。

やってはいけないことをしてしまった背徳感と達成感に私は思わずため息をついた。

次にきたファンのひとにどうしたの?と言われ、首を振って気持ちを入れ替えた。

しかしその後の握手はふみちゃんのことが気になって集中できなかった。



握手が終わり帰る準備をしていると麻里子さまが私のとこにやってきた。

「みなみ」

「ん?」

「なんかあった?」

「ふえっ!?」

思わず声が裏返ってしまった。

「やっぱりなんかあったのね。」

「な、なんでわかったんすか」

ふみちゃんに渡したことがバレていたのか。

「私のとこに握手にきた子が言ってたんだ。『夕方からなんかたかみな握手行っても上の空でなんかあったのかなー?』って」
「…っ。」

上の空だったのか。

あの後のことは全然覚えていない。

「みなみがそんな風になるのってそうそうないからさ、なんかあったのかなと思って。別に無理にとは言わないから、たまには私を頼ってよ?」

「ま、麻里子さま…」

「まぁ、それだけ。じゃあね。言いたくなった言って。聞くから。」

そうやって片手を振っていった。

「まりちゃん遅いー」

「ごめんごめんー」

遠くでにゃんにゃんが麻里子さまを待っていた。


…麻里子さま、みんな。

ごめん。

ひとり残された私は顔に手をやりしばらくそうしていた。




















To be continued.

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