銀魂夢小説
□第八訓
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「よーろーずーやーさァァァん!!」
私、睦月雪乃は現在万事屋銀ちゃんの家の前にいる。
というか叫んでいる。
「うるせェな。なんだよ雪乃。こちとらまだ寝てたんだよ。ご近所迷惑というのを考えろ」
寝起きなのか、ひどい頭がさらにひどくなっている銀髪天然パーマの男。
出てきたのは坂田銀時である。
「ご近所迷惑っていうか、もう昼だよ。ご近所さん皆働いてる時間だよ」
「へいへいっと……でー?真選組会計長が何の用ォ?」
「会長と呼べ。…いややっぱりいいや。私真選組抜けるから」
「…へぇ、そうなんだ……………………はァ!?」
―――それは遡ること数時間前。
気持ちよくスヤスヤとっていた私は、突如殺気がして目が覚めた。
そしてすぐさま警戒態勢にはいった。
ドゴォォォォン!!!
「うわぁぁぁぁ!?」
けたたましい音と共に煙が自室をおおう。
警戒態勢だったおかげか、命からがら逃げ出すことはできた。
「…っち」
そして、そこでバズーカーを構えながら舌打ちする沖田総悟の姿を発見した。
「っち、じゃねェェェェ!何バズーカー打っちゃってんの?部屋の修理代もバカになんないって前に言ったよね!?総悟!だいたいいつもは土方じゃん!」
いつもは土方に飛ぶバズーカーは何故か今日は私のところに来た。
「土方が部屋にいなかったんでさァ。部屋を爆破するっていう嫌がらせもあるけど、それじゃつまんないんでィ。で、矛先がお前に向いた」
平然と言ってのける総悟に私は部屋を破壊された怒りと、奇襲された悔しさでイラついていた。
あぁ、土方さんの怒りが今ならわかるかも。
わかりたくもなかったが。
「ふざけんなァァァァ!!」
―――で、食堂。
「ガッハッハッハ。総悟は朝から元気だからなァ!勘弁してやってくれ!」
大らかに笑う近藤さんのその姿までも、今の私には癇に障る。
「少しはわかったか、俺の苦しみが」
土方はどこか得意げにうすら笑っている。
(゚Д゚)ウゼェェェ。
「つか土方さんどこにいたんですか。アンタのせいであんな目に遭ったんですけど」
「ふっ。さすがの俺もこう毎朝毎朝奇襲されれば学習するんだよ。別のところに避難してた」
うわ、やっぱりウザイ。
マジで消えろよチンカスが。
「まァ油断してた雪乃が悪いでさァ。そりゃあ土方暗殺計画に参加してる副参謀の雪乃にはある程度譲歩してやすが、俺ァもともとドSなんでィ。誰でも平等にいじめるのがポリシーでさァ」
「副参謀だったのかテメェ」
おいおい総悟くんよ、計画の首謀者の名前を明かさないでくれるかな。
そして、平等にってなんだよ。
「そんなポリシー、ドブにでも捨てちまえ」
「何キレてんだよ。俺がやられた時は大笑いしてるクセして、自分がやられたらってそりゃあねェだろ」
ああ、もうイライラする。
土方の一言一言がゴキブリのようにうざい。
「そうだぞ、雪乃。なんでも許せる大らかな人になれ!お妙さんのようにな!」
「いや、あの女は全然大らかじゃないから。むしろ凶暴だから」
「ガーハッハッハッ――――オボレゴヘシャァアアアアッ!!」
大声で笑う近藤さんについにぶち切れた私は、アッパーをかましてやった。
「近藤さァァァァん!?おい、雪乃!」
「雪乃?」
「土方が…土方が朝奇襲されるときはいつも大事な書類は私が避難させてた。大事そうなものはいつもバズーカーにやられないように…っ」
「あ、ああ。そういや書類とか大事なもんがいつも無事なのはそういうわけか…」
「けど……私の部屋を破壊された挙句、書類も全部全部燃えてた。やっと終わった書類も、大事な書類も…っ」
「「「!!」」」
「おまけに…私が大切にしてた猫のぬいぐるみも燃えカスになってたぁ!!」
ついには私の両目から涙がボロボロ落ちてきた。
ダメだ。止まらない。
「や、あの…雪乃ちゃん……っ」
「す、すまねェ。確かあの気色の悪い猫のぬいぐるみはお前ずっと持ってたもんな。大切だったよな」
「あの見てるだけで軽く殺意を覚えるようなあんなぬいぐるみをですかィ?どこが気に入ってったんでィ」
「おい総悟!」
「……あのぬいぐるみはお兄ちゃんからの最初で最後のプレゼントです!!あれが唯一の家族との繋がりだったんですよ!!…もう知らない!皆なんて大っきらい!!私真選組をやめますから!さようなら!」
そう泣き叫んで、私は真選組を走り出た。
私の大好きだった兄。
あの無愛想でぶっきらぼうな兄が初めて、そして最後にくれたプレゼント。
それが、今はもう見る影のないケシカスとなった。
―――現在。
「ってわけですよ!どう思います!?」
バンっ
万事屋の客間で茶を飲みながら今までの経緯を話し、最後はテーブルに手を思いっきりつけながら叫んだ。
「それは完璧奴らが悪いネ!!今からぶっ潰してくるアル!」
「いやいや待とうか神楽ちゃん。それじゃ全面戦争になっちゃうから。幕府と戦争になるから」
「雪乃姉が泣いたアルヨ!戦争の理由にはならないアルか!」
「あー、確かに女の子の流した涙は理由にはなるよ?いや、でもね?戦力の差を考えようか?」
「私だけでもぶっ潰せるネ」
「うん、お前ならできそうで怖いわ銀さん」
神楽ちゃんを抑えながら銀さんはこっちを向いた。
「それで雪乃はどうすんの?」
「とりあえず、住むとこなくなったからここに置いて」
「一方的だな、おい。まァいいけどよ。本当に真選組やめてよかったのか?確かにあいつら税金泥棒だし公共物壊すし不当逮捕とかするし不愉快だしゴリラだしマヨだしサドだしジミだし………あれ?いいとこないや」
「銀さん締めるとこは締めてください」
いまいちカッコのつかない銀時に冷ややかな視線を送る新八。
「あー、だけど…筋通して生きてんじゃねェの?自分の武士道貫いててよ。女にゃわかんねェかもしれねェが」
「わかってますよ。あいつらが本当はすごい奴らってことぐらい。私の方が銀さんより長い付き合いなんですから。真選組結成する前から一緒でしたから」
「そんなに長く一緒にいるんですか?」
「うん、家族より一緒にいる」
「そりゃ、家族は心配ものだな。可愛い娘がムサイ男どもに囲まれてたなんてよォ」
「ううん。お父さんとお母さんは物心つく前に死んでたし、お兄ちゃんはあんまりそういう感情はなかったです。最終的には私を捨てたくらいだし。それで私を拾ってくれたのが近藤さんだったから」
「そォかい」
「…だから本当は過去の思い出のぬいぐるみよりも、今の近藤さんたちを大事にしなきゃいけないのはわかってる。わかってるけど…気持ちの整理がつかなくて…っ」
「おう、だったら気が済むまでここに入ればいい。整理整頓ができたらあいつらぶん殴りに行ってこい」
「うん…っ」
私は涙を流しながら、必死に頷いた。
大切な思い出を失ったけれど、同時に何か枷もはずれた気がした。
不自由だった心が、少しづつ自由になっていく音が。
(それにしてもやっちまったなァ、多串くんたち)
(自業自得ヨ。雪乃姉をこんなに泣かして)
(いやでも結構これは向こうも響いてると思いますよ)