SCREAM

□1.プロローグ
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仗助と億康に手を振って別れる。
そうして携帯を取り出し、昨日の夜に突然送られてきたメールを読み返した。
差出人は、あの空条承太郎さんから。

彼からのメールには、「君に話がある。スタンドに関することだ。明日の午後6時、君の家の前まで迎えに行くから待っていてほしい」という簡素な文が綴られていた。

そう、用事というのはこれだ。
初めは何事かと思った。
最強のスタンド使いである彼が、中学生に話すことなんて何があるのか、と。
何度か共闘…と言えるほどでもないが、同じ敵の相手をしたことはある。
だけど、本当にただそれだけ。
それだけの間柄なはずなのに。

そもそも、私のメールアドレスなんてどこで知ったのだろう。
いや、きっと仗助あたりに聞いたに違いない。
…そういうことにしておこう。


 * * *


「ただいま」

しんとした家に私の声はよく響いた。
一人暮らしをしているため、当然だがこの一戸建てには私以外誰もいない。
親は二人とも出張で家を空けることが多く、私が中学校に入ってからはそれが更に増えた。
家族三人が揃うことなんて一年に一回あるかないかだ。

…もっとも、「出張」の理由が、本当に仕事なのかは定かではない。
生まれつきスタンド使いだった私を両親は避けていた、というよりは嫌っていたし関わらないようにしていたから。
そんな私の面倒を見て、育ててくれていた祖母も去年亡くなった。

頭を切り替えるように制服を私服に着替えて、支度をする。
それにしても、空条さんが私に話すことって何だろう。
スタンド関連なら他に人が呼ばれてもおかしくはないはずだ。
私以外の人、例えば仗助や康一にはもう話していることなのか。
でもそれなら、今日会ったときに話題に上がるよね…

――パッパーッ

甲高い車のクラクションの音で、現実に引き戻される。
急いで鞄を持って靴を履き、家から出た。
そこには黒い普通車が止まっており、その運転席には空条さんが乗っていた。

前に会った時と変わらない姿。
仗助に聞いたことによれば外国の血が入っているらしく、彫が深く整った顔立ち。
それでいて無表情で、寡黙で思慮深い。さぞかしモテるんだろうなあと思う。
…いや、確か奥さんと子どもがいるんだっけ。

彼は私の姿を認めると、そのエメラルドグリーンの瞳でじっと見つめてくる。
乗れ、ということなのだろうと判断し、軽く頭を下げてから助手席のドアを開けた。

「…失礼します」
「久しぶりだな、篠原」
「はい。吉良の一件以来ですから…二か月ぶりぐらいですね」

自分で言って気づく。
吉良との戦いがあってからもうそんなに経ってたんだ。
とはいっても私はほとんど何もしていないし、ただ引きずられる形で仗助について行っただけ。
部外者もいいところだ。
いつしか車はゆっくりと動き出していた。
町の灯りがフロントガラスに当たって滑る。

「いきなり呼び出してすまなかった」
「いえ、大丈夫です。それより、話って…」
「単刀直入に言おう。スタンド絡みのことで、君に頼みたいことがある」
「私に…ですか?」

思わず空条さんを凝視する。
彼は変わらず無表情のまま、前を向いてハンドルをきっていた。

「あぁ。君が一番適任だろうと思ってな」
「そんなことは…」

私のスタンドははっきり言って、弱い。
他の――例えばクレイジーダイヤモンドやエコーズ、ヘブンズ・ドアーなどと比べて、だ。
空間を削り取ることができるわけでも、己の髪を自由自在に操れるわけでもない。
攻撃力なんてまるでないし、出来ることといえば自分か相手の体を闇に紛れ込ませ見えなくするだけ。
私のスタンドでは、彼らのように敵を倒すことが――できない。

「…私のスタンドでは、力不足だと思います」
「いいや、そんなことはない。何もスタンドは戦うことだけに使うものじゃあないからな」

驚いて再び彼を見る。
心を読まれた?まさか。
すると今度は空条さんもこちらを見、口元にニヒルな笑みを浮かべる。

「どうだ?まずは話だけでも聞いてみないか?」


 
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