今夜も君を待っている

□略奪者はあなたがいい
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「……した」
「えー? 何だって?」
「っ、嫉妬したって言ってるの!」

勢いで言ってしまった。後悔しても遅い。
恐る恐る視線を戻せば、嬉しくてたまらないといった表情の快斗がいて。

「その瞳が堪らなく私を惹きつけるんですよ…」

顔を真近に近づけてそう言われ、思わず息を呑んだ。
彼の竜胆色の透き通った瞳から目が逸らせない。

「それに…瑠璃さんは可愛すぎる」
「は、?」

疑問の声を上げる。可愛い?何が?
そんな私にはお構いなしに快斗は言葉を紡ぐ。

「好きなんです、あなたのことが」

ストレートな言葉に息を詰まらせてしまった。
あまく溶けた表情。喉元を伝う指先がひどく優しくて。

「愛しくて愛しすぎて、」

確かめるように零される言葉。
何が起こっているのか分からなくて、頭がパンクしそうだ。
くしゃ、と快斗の顔が歪む。

「もう、離してやれない」

苦しげなその声に体が震えた。私の目尻に盛り上がった涙が今度こそ溢れ、頬を伝っていく。
上体を起こした快斗に、両の腕を差し伸ばす。
自分でも酷い顔をしているとは思うけれど、それでもなんとか笑って。

「全部奪って? ――月下の奇術師、怪盗キッドさん」
「…あなたは、ずるい人だ」

強い力で思い切り抱きしめられ、それでも苦しさより嬉しさが勝る。
快斗のものになるのがこんなに嬉しいだなんて、思わなかった。

「あ…」
「朝か…」

ガラス張りの大きな窓から射し込む、薄い、けれど力強い光。
部屋の中を舐めてゆくそれに、快斗が目を細める。
それでも、手は私のことを掴んだまま離れない。心臓がぎゅう、と音を立てた気がした。
そっと彼の横顔を眺める。朝日の中で見たキッドの、怪盗の姿はどこか神秘的で。
私はきっと、この時最大の恋をした。




 
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