今夜も君を待っている

□脳を占領されました
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男物のボディスーツ姿になった私を見て息を呑む彼らを背に、軽く地面を蹴った。たったそれだけの動作で男女の背後に立つ。
急に現れた私に驚愕の表情を浮かべるキッドはとりあえず無視し、まずは銃を持つ男の首に腕を巻きつける。そのまま力を込めれば簡単に気を失い、その場に頽れる男。

「は、ちょっ――」

慌てふためく女の腹には突きを一発。同じように倒れ重なった男女を見て一息ついた。

「いやぁ流石ですね。実に鮮やかだ」
「これに懲りたら拳銃ぐらいは持っときなさいよ」
「私の手に握られるべきは、無骨な鉄の塊ではなく、お嬢さんのその白く美しい手ですよ」
「…言ってろ」

気障な台詞と共に拍手をするキッドに苦言を呈す。なるべく普段通りに接そうと、胸の高鳴りを誤魔化して。
それにしても眠い、と目を擦った。出来るなら早く帰りたいけれど…今日は果たして、眠れるだろうか。
男の拳銃を遠くへ蹴り、さて子供たちは、と振り向けば少女を先頭にこちらへ駆け寄ってきていた。

「すげーな!」
「お姉さん、ありがとう!」
「格好よかったです!」

三人に目をキラキラさせながら言われ頬を掻く。しかしなんで女だってバレて…あ、声と口調が素のままだからか。ミスった。
その向こうからゆっくり歩いてくるコナンくんともう一人のクールそうな少女。小声で何事か話しているようだ。

「…まさか、奴らの」
「違うと思うわ。雰囲気も臭いも違うし、それに――」

いまいち内容が掴めないけれど、それよりも。一向に自分から離れようとしないこの少女、どうしたものか。

「ねえねえ、さっきのどうやったの?」
「んー…秘密、かな」
「ええーっ」

むくれる彼女の頭を撫で、さてどうやって逃げ出そう、と思案を巡らせていたその時。

「こっ…このクソアマが――っ!」

汚らしい叫び声に金属音。しまった、完全に気絶させられていなかったのか…!
振り向けば小型拳銃を構える女。どうやら隠し持っていたらしい。その銃口は私――いや、私のそばにいる少女に向いていて。
危ない、と声を上げる前に体は動き出していた。

――パァンッ、パンッ

抱きしめるように少女を庇い、背中に数発の銃弾を受ける。防弾性のあるスーツだから弾は肉体に届いてはいないが、痛い物は痛い。肋骨にヒビぐらいは入っているかもしれない。

「お姉さんっ…! 大丈夫!?」

涙を溜めた目で心配そうに顔を歪める少女。泣かせてしまったな、と胸が痛む。

「平気、っ…それより、怪我はない…?」

ふるふると首を振る彼女に安堵する。よかった、と微笑んだところで。
視界が黒く染まり、意識が途切れた。






 
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