今夜も君を待っている
□さよならのぬくもり
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「…よし、もう大丈夫ね。完治おめでとう」
「ありがとうございます」
家お抱えの女医に礼を言って、服を着る。お抱えといっても親戚だ。気は知れている。
この間の肋骨のヒビがやっと治った。酸素カプセルなどのお陰で通常よりは早かったが、暫くただ安静にしているだけというのは退屈すぎて死ぬかと思った。
スマホで報告していたらしい女医があら、と声を上げる。
「今夜から仕事復帰ですって。忙しいのねえ」
「ここのところずっと休んでましたから…」
橘家分家の裏家業の一つに、窃盗がある。そしてそれが私の主な仕事だ。まだ高校生ということもあって、私がするのは窃盗だけ。だけど他の皆はオールラウンダーだ。いつかは私もそうならなきゃいけない。
でも、まさか名門である"橘"の分家が裏で金を積まれれば子守から殺人まで何でもする、文字通りの便利屋をしてるだなんて。誰も夢にも思っちゃいないんだろうな。
「頑張ってね、瑠璃。でも無茶はしちゃ駄目よ?」
「はい。ありがとうございました」
一礼して部屋を出る。そのまま自室に戻り、後手に襖を閉めて凭れかかった。
この間は結局、キッドに何も聞けないまま終わってしまった。でも何故か、胸中に漂っていた靄はなくなっていて。
それに。
「…また、キスされちゃった」
唇を指でなぞりながら独りごちた。
どうして、と声にならない疑問が口から滑り落ちる。これで二度目。考えれば考えるほど胸が痛くなって、鼓動が早くなって。
とりあえず、と気持ちを切り替えるように電灯のスイッチを入れる。考えてたって仕方ない。夜に控えている仕事の準備をしなくちゃ。
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