今夜も君を待っている

□脳を占領されました
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最近、悩みすぎて眠れない夜を過ごすことが多い。原因は勿論、この間のキッドの行動。
顔を見られたこともそうだけど、それ以上に――彼と、キスをしたこと。あの柔らかい感触がどうしても頭から離れなくて。
馬鹿らしい、と頭を振って時計を見た。もうすぐ怪盗キッドの犯行予告時間だ。今夜は次の現場の下見だけをして帰るつもりだったが、ついつい近くまで立ち寄ってしまった。
今回は、鈴木財閥がパーティーで公開する宝石を狙った犯行のはず。とりあえず会場であるビルの屋上に向かう。ビルの構造上、逃走経路として一番考えられるのがここだからだ。
ここまで来たのは、あの夜のことを問い詰めたい、という思いと、それから…それから? わからない。
とにかく、このモヤモヤした気持ちをどうにか晴らしたくて、キッドに会えばそれがどうにかなるかもしれないと考えたから。
しかし眠い、と欠伸をひとつ。睡眠不足で頭が割れそうに痛かった。

「本当にここで待っていれば、キッドが来るんでしょうね?」

思いもよらない子供の声に、思わず肩を跳ねさせる。声は入り口近くにある大きな室外機の後ろから聞こえてくるようだ。

「あぁ、奴が逃げるのに使うのはここで間違いねーよ…だからお前らは」
「イ・ヤ・だ!」
「コナンくんだけずるーい!」
「そうですよ!僕らみんな揃って少年探偵団なんですから!」

…どうやら探偵ごっこ中の子供たち、らしい。いや、コナン…という名前には聞き覚えがある。確かキッドキラーと呼ばれ鈴木次郎吉に気に入られている小学生ではなかったか。そっと様子を伺えば確かに新聞で見たことのある子供がいた。
しかしこのままここに居られても邪魔だ。手早くビルの警備員に変装する。

「君たち、ここで何してるんだい?」

後ろに回って声をかければ、一様にぎくりと体を固まらせる少年少女。

「け、警備員さん…」
「かくれんぼならもっと、」

――パンッ

違うところでしなさい、と言う前に響いたのは、銃声。次いで階段を駆け上がる複数の足音。
体を強張らせた子供たちを庇うように前に立ったところで、屋上のドアが勢いよく開け放たれた。
出てきたのは、怪盗キッド…だけではなく、見知らぬ二人の男女を加えた三人。彼の姿が見えた途端、少しだけ心臓が跳ねたがそれどころではないと自分を叱咤する。
しかも男性の方は銃を構えていて、これはまずいなと眉を顰めた。

「キッドォ!もう逃がさねえぞ!」
「それは元々私たちが盗むはずの物だったのよ!」

男女が次々に叫ぶ。
あぁ、獲物をキッドに先回りして盗まれた同業者か。気持ちはよくわかるのが辛いところだ。

「よく言われますよ。しかし銃を向けるとは…無粋な」
「黙れ! てめえの美学なんざ知るか!」

続けざまに発砲されるが難なく避ける怪盗。
幸いなことにこの同業者であろう男女は、物陰に身を潜めていた私達には気づいていないようだ。それもキッドに視線を奪われている間だけで、彼がここから逃げでもすればすぐ見つかってしまうだろう。
こうなれば仕方ない、それにここにいるのは子供だけだし大丈夫だろう…と息を殺していた子供たちに振り返る。

「みんなはここで静かにしててね。大丈夫、すぐ終わるから」
「え、おじさ…」

コナンくんが何か言い終える前に、変装を解いた。





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