ぬらりひょんの孫

□目が覚めると
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チュンチュンチュン。


チュンチュンチュンチュン。


チュンチュンチュン。


鳥の声が聞こえる。
何故か三三七拍子を刻みながら、オレの鼓膜を揺らしてくる。

もぉ、うるさいなぁ〜。

少しイライラしながらうっすらと瞼を開い時だった。目に射し込んできた白い光に、眠気という眠気が全て吹き飛んだ。

白い光?

ひかりー?

光ですね。

……………。





朝だぁぁぁあっ!
やっべぇぁぁぁっ!
寝坊ギャァァァァっ!!!!!!!!




と、暴れながらそう叫んだつもりであったが……………、オレの声帯から迸ったのは…………、

「あうあぁーーーっ!ううあぁぁーーーっ!!あうーーーっ!!!」

ん?あれれ?何かおかしいいなぁ〜?
オレの声が、赤ん坊のようになっているような。

だがしかし、そう疑問が浮かんだ瞬間だった。
オレの身体が、突然浮遊感に包まれたのは。

この浮遊感は、いったい…………。
なんて呑気に考えている間もなく、己の肉体は、『落下』していった。

え?落下?
ああそうか、昨晩ソファーで寝たからか。寝坊に驚いて暴れたせいで、そっから転げ落ちてしまって…………。

その時だった。
床に叩き付けられると覚悟していたのだが、その衝撃はいっこうに訪れて来なかった。代わりにやって来たのは、痛みでも息苦しさでもなく、温かい人肌の柔らかさと温もりだった。

ぼっふん!

『おいっ!大丈夫かアキラ!!』

そう、オレは抱き止められていた。
会ったことのない一人の男性に。

男性は、とても綺麗な人だった。
けれども、どこか普通ではない気がする。
いやっ!普通じゃない!

目の前の男性の長い黒髪は、重力に逆らい地面と平行に伸びていた。
顔の感じは日本人なのだが、らしくない金色の瞳。

見たことある。見たことあるぞ、こやつは。現にオレが昨晩見ようとしていた『ぬらりひょんの孫』デーブイデーの登場人物。そして、主人公良奴リクオの父親。

良奴鯉伴。






なんだとぉぉぉぉぉぉっ!?
マジすかマジすかマジすかぁぁぁっ!







と、いうことは?
恐る恐る視線を横に外せば、視界に入るのはあの更衣室のソファーではなく、年忌の入った迫力のある日本家屋一軒家。
一瞬だけ頭が馬鹿になったのかと疑ったが、どう考えても目の前の場景は本物のようだ。

オレが落下したのは、良奴組の屋敷の縁側だった。

何ですとぉぉぉぉぉぉっ!!

とまたしても絶叫するが、口から迸る言葉は

「ああうぅーーー!」

の調子だ。

嫌な予感をひしひしと感じる!!
だっておかしいよ!?
オレの声って、こんなかわいらしいもんだったっけ!?
つーか母音しか出てませんよこれぇぇぇぇっ!!
オレ、大人!!!
抱っこして貰わなきゃ生活出来ないほど弱ってませんよ!

そうやって反抗していたのだが、オレはとんでもないものを発見してしまった。

手が!手が!

手が赤ちゃんーーーっ!
ぷにぷにしてる!ふくふくしてるーーーっ!

何故!ホワイっ!

オレは、赤ん坊になっていたのでした。



マジすかマジすかマジすかぁぁぁっ!



「大変だ!アキラが縁側から落っこちたぞぉぉっ!」

いやいや落ちてません!落っこちてません!貴方がちゃんと受け止めたでしょうが!?
そんなに大袈裟に振る舞うなぁー!

「なんだってぇぇぇぇ!」

「アキラ様が!?」

「医者を呼べぇ!」

「鳩を呼べぇぇ!」

そしてあっちこっちから沸き出す小妖怪たち。
彼らはあっと言う間にオレの側まで押し寄せてくると、その強面を惜しげもなくさらしてきたではないか。

怖いぃぃぃっ!
ひぃぃぃぃっ!
拷問ですかこれは!
だって人外だよ!?
鬼とか牙とかでっかい目玉とか、とにかくぐちゃぐちゃな顔とか!

「うわぁぁぁぁぁんっ!」

思わず絶叫したつもりが、涙腺のデリケートな赤ん坊の目からはほろほろと涙までもが零れ落ちてきた。
更に慌てふためく鯉伴とその他妖怪たち。
あ、あれは鴉天狗かな?
自分の羽をむしる勢いだ。

むしらないでぇぇっ!!!
あんたもう既にヒヨコみたいじゃないかぁ!それ以上身体をいじめないで!

あ、あれはぬらりひょんかな?
だって顔長いもん。
あ、キセルを口から落とした。
火事にだけはするなよ〜。

………………………頭長ぇ!!
ちょー長い!
皺多い!頭の皮しわくちゃだぁー!
どうせなら若いぬらりひょん見たかったぁ!










ああ、もう滅茶苦茶だ。
取り敢えず、ここの妖怪たちは過保護過ぎる!
これだけは言えるよ、うん。
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