ぬらりひょんの孫

□Cお料理をしよう!
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午後4時。
この時間になると、オレは毎日テレビに張り付く。
放送される番組が好きだからというのもあながち間違いではないのだが、とある欲求をセーブしておくためという方が実のところ本音だったりする。

「おいアキラ、見えねぇじゃねぇか。もうちょっとテレビから離れろ」

と、背後から聞こえてくる親父の文句に、相当近くで画面をガン見していたことに今更ながら気が付く。
部屋にはやや大きめの炬燵が置いてあり、親父はその中でぬくぬくと温まっていた。かごに入ったみかんが上に鎮座し、周りには数個分の皮が散乱している。
オレは炬燵には入っていない。少しでも近くで番組を見たいあまり、いつの間にか抜け出てしまっていたことにも、今更ながら気が付いた。
息子の自分が言うのも難だが、親父のような奴良組総大将の肩書きを持つ超絶美形な男が、こんな野暮ったい光景の中心にいると、微笑ましいというか正直笑えてくる。けれどもやはり、そんな彼にも暇というものがあり、たまにこうして冬の寒さを退けながらテレビ視聴に興を求めるのだ。

「ああ、ごめん」

謝罪の言葉が素っ気なくなってしまったが気にせず、幾らか身体を後ろにやってから、オレは再び画面にかじりついた。

「炬燵にも入らず正座なんかして、そんなにこの番組が面白いのかい?」

「……………ちょっと黙ってて」

親父の問を、沈黙の後一刀両断。背中に寂しさがひしひしと伝わってくるが、優先するべきは番組だ。
せめてこれを見るだけでもしなければ、このオレの胸の虚しさは拭いきれないのだ。
番組の正体は何か。それは、何を隠そう「料理番組」以外の他ならなかった。

うわぁぁぁっ!料理したいぃぃっ!

以前に包丁を握っていた感覚が、今でも手に残っている。
しかし、残っているだけでトリップして以来、四年と半年間実物には触っていなかった。

あぁぁぁぁっ!包丁握りてぇぇぇっ!

これが、目下の悩み事なのである。
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