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□拝啓、天国にいるお父さん
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家に着き、お母さんと俺が隣に座り、その前にあの男が座る。


『アルベルトさんの言った通りです。この子はロベルト様の子どもです。』

「やはり…」

『申し訳ありません。』

「では急に辞めたのは」

『はい、この子ができたと分かってすぐに…』

「どうして何も言わなかったのですか。」

『…アルベルトさんも分かっているはずです。私とじゃ釣り合いませんから。』


悲しそうに話すお母さん。だけど俺は何もピンとこない。お父さんは生きている?


「ねぇ、ロベルトって誰?もしかしてお父さんの名前なの?」

「聞いたことありませんか?」

「うん。」

「貴方のお父様はアルタリア王国の王子、ロベルト・バトン様です。」

「王子様…?え、死んでるんじゃないの?」

『ごめんね、ルカ。お母さんが嘘をついていたの。貴方のお父さんは生きてるの。アルタリアの王子様として。』


まるで幼稚園で聞かされる絵本の中の世界のような話だ。古いアパートにお母さんと二人で暮らしていた俺が王子様の子どもだなんて。


「ほんとに?」

『えぇ。』

「貴方はとてもお父様に似ています。その茶色くて少し癖のある髪、アーモンド色の目…とてもそっくりです。」

「お父さんが生きてる…」

「…今は中々受け入れられないでしょう。また来ます。」

『アルベルトさん!お願いです、このことは言わないで下さい。』

「…それはできません。一国の王子の子どもですから、私の一存では…」

『迷惑かけたくないんです。このことが彼の耳に入れば必ず私と籍を入れるというでしょう。でもそれは世間にどう思われるか…私だけならいい。だけど、彼に迷惑はかけたくない。』


ギュッと俺を抱きしめてお母さんは真剣な表情で言った。


『この子を…ルカを巻き込みたくないのです。きっとこの子もいい風に言われないでしょう。
お願いです、私たちをそっとしておいてください。』


頭を下げているお母さんに、困ったように息を吐きながら、


「…とりあえず、また明日ここへ来ます。明日もう一度話してから今後のことを話しましょう。ひとまず、ロベルト様には内緒にしておきます。」

『ありがとうございます。』


頭を下げているお母さんの横で見上げるように男を見た。


「一人で大変でしたね。並大抵のことじゃなかったでしょう。」


そうお母さんに言い、俺の目線に立って頭を撫でてきた。
あんなにも敵だと思っていたのに、この男に撫でられるのは何故か嫌じゃなかった。


「立派に育ちましたね。貴方が立派に育ったからお母さんも頑張れたのでしょうね。」


そういうとお母さんは涙を流していた。どうすればいいのか分からず、お母さんの頭を撫でるとお母さんはギュッと抱きしめてきた。

その様子を見ていた男は、少し口元が緩んだ気がした。


「それでは明日。時間は追って連絡します。」


そう言い残し、帰っていった。


帰った後はお母さんになんて声をかければいいかわからなくてあまり話しかけれなかった。


『ごめんね、泣いてばかりじゃダメだね。』


沈黙を破ったのはやっぱりお母さん。


「お母さん、大丈夫?」

『大丈夫よ。…嘘ついててごめんね。』

「…お母さんはお父さんのこと嫌いだったの?」


純粋な疑問だった。何故嘘をついていたのかわからなかったから。

お母さんの目は少し大きく見開き、そしてそっと俺の頭を撫でてきた。


『好きだったわ、大好きだったの。だけどね、王子様だったからお母さん迷惑かけたらダメだと思ってお父さんから離れたの。』

「王子様だから?」

『えぇ、王子様はお姫様と結婚するでしょ?』

「でも…お父さんはお母さんのこと嫌いだったの?」


少しの沈黙の後、お母さんは重い口を開いた。


『愛してくれていたと思うわ。じゃなきゃ貴方はここにいないもの。』


優しく笑いかけてくれたお母さん。だけどその時は本当に理解できませんでした。じゃあなんで一緒に暮らせてないのだろうって本気で思ったから。

だけどそんなこと今のお母さんには言えなかった。


『お腹空いたよね、ご飯作るね。』


そう言ってキッチンへ行ったお母さん。取り残されたような気分になりながら料理をするお母さんの背中を見る。

お父さんは王子様で…お母さんは普通の人。

偉い人と偉くない人ってことだけど、やっぱりよく分からない。お父さんとお母さんはなんで一緒にいられないのかが。


『ご飯できたよ、運ぶの手伝って。』


机に2人分の料理を並べて食べ始める。
いつだってそうだ。俺の事をずっと見ていてくれたのはお母さん。確かにお父さんには会いたいけど…


「お母さん、俺はお母さんが悲しくならないない方にしてほしい。」

『え?』

「俺はいつでもお母さんのことが大好きだから!ずっと守るから!」


胸を張って言った言葉。


『…やっぱり貴方は彼の子ね。』


ありがとう、そう言ってニッコリと笑いかけた。
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