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□虹色の夢を君と見たい⑴
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王子であるからには、他の国の王子に負けないくらい努力しろ。

常に一番であれ。


こんな言葉ばかりを聞いて育った。

兄が王位を放棄してから、
何もかもが一変した。


本当は兄に王になって欲しいと思う両親の気持ち、不安そうにヒソヒソと話すメイドたちの声。

全てが嫌だった。


登りきれないような崖を見上げているような。そんな苦しさから抜け出したかった。

















虹色の夢を君と見たい
















公務が続き、心身ともに疲れ果てていた。そんな姿を見て心配するクロードに「大丈夫だ。」と答えて資料に目を向ける。

なんて大変な日々なんだろうか。ただただ公務を遂行し、笑顔を作り…
これは本当に自分なのだろうかと疑いたくもなる程に、自分らしくない。

いや、もう自分らしさなんて分からなくなった。いつのまにか自分の意思なんて関係のない世界に生きてきた。


「この後はパーティーが控えております。」

「あぁ。」


なんとも思っていない女の手を取り、赤い絨毯の上を歩いてパーティー会場へ行くと考えただけでため息が出る。

されど行くしかないのだ。

“王子様”だから。


「ご機嫌よう、ウィル様。」

「あぁ…お手をどうぞ。」


貼り付けた王子様の笑顔を向け、その手をとる。

自信に満ちたような笑顔で歩く隣の女性はきっと“王子様”のブランドがあるからで。

ただの庶民だったら見向きもしないのだろう。

赤い絨毯の上を歩き、目的地にたどり着けば、シャンデリアで輝く世界が出迎える。


「あ、来ましたよ。」


グレン王子と目があったと思えば、周辺にいた王子がやって来る。
付き添った女にはまた後でと伝え、歩み寄る。


「ウィルりーん!」

「今日は派手な女を連れてきたな。」

「おい、失礼だぞ。」

ロベルト王子があだ名で呼び、キース王子は思ったことをサラッと言い、ジョシュア王子が咎める。
いつも通りすぎる会話に少しホッとした。あぁ、ここだけは変わらないって。


「大丈夫ですか?顔色があまり良くないような気がしますが。」


エドワード王子が心配そうにこっちを見る。やっぱり彼には騙せそうにもないななんて思いながら


「いや、大丈夫。」


そう言ってみせた。


「まぁ、無理は禁物だよ?」

「ロベルト王子の言う通りだ。倒れたら元も子もないからな。」

「うんうん、年長組が言ってるんだから間違いないよ!」


ロベルト王子とジョシュア王子がそういう。こんなくだらないパーティーだけど、彼らと話す時間が取れたことは良いことだったと思える。


「それでは、失礼。」

「私も。」

「また後で。」


だけどそんな時間がずっと続くわけでもない。他の人たちと話をしなければならないし、パートナーを放置しすぎるのも良くない。

一通り挨拶を終え、パートナーの元へ行けばわざとらしく腕を絡めてきた。


「寂しかったです。」

「そう?それはすまなかった。」

「うふふ、特別に許しますわ。」


緩やかなワルツが流れれば、手を取り合い音楽に身を委ねる。早く終われと願いながら一歩一歩ステップを刻んでいく。

音楽が終われば、手を離しお辞儀をする。


「もう終わりだなんて悲しいですわね。」

「そうだな…少し話をしたい人がいるから待っててくれ。」

「早く戻って来てくださいね。」


そう言った彼女に「あぁ。」と言い、踵を返す。
話すだなんて嘘で、とりあえず静かなところへ行きたかった。

外は青く優しい光に包まれていた。月光が導いてくれるかの様に、中庭の奥へと足を進める。
すると、一人の女性がそこにいた。何をしているんだと近づくと、わずかに聞こえて来る音楽に合わせて一人で踊っていたのだ。

右へ行きくるりと回って後ろへさがり、左へ行く…

ワルツとは程遠い動きできっと彼女が勝手に踊っているだけなのだろう。
そんな彼女のダンスを観ていると目が合い、ダンスをやめた。


「すまない、観るつもりじゃなかったんだが…」

『いえ…こんなところで踊っていた私が悪いので…』


そう言いながら恥ずかしそうに俯く彼女の元へ行く。


「どうしてここにいるの?」

『ダンスホール、私には眩しすぎて…ここが一番落ち着くんです。』


ここ、私の逃げ場なんですと笑って言った彼女に久しぶりに王子ではない俺自身の笑顔を作ることができた気がした。


「確かにな。…君、名前は?」

『リサです。リサ・ネフェルト。』

「ネフェルト家のご令嬢か。」

『ネフェルト家の三女です。ネフェルト家の娘がこんなところで踊ってるなんて口が裂けても言えないですよ。
…だから内緒ですよ?』


口元に手を当てて笑った彼女。


『貴方は?』

「ウィル・A・スペンサー。」


さっきまで笑っていた彼女が青ざめる。


『申し訳ありません…!!気づかなくて…!!』


笑ったと思ったら青ざめている彼女に思わず笑ってしまった。


『何で笑うのですか…』


少し怒ったようにいう彼女に謝る。


「ごめん、ごめん。久しぶりに面白いもの見たなって。」

『褒めてます?』

「褒めてる。」


自然と笑顔になれたのはいつだろう。遠い昔のように感じる。

いつのまにか曲は新しいものに変わり、一定のリズムが優しくゆったりと聞こえてくる。
そっと手を差し出すと、ポカンと口を開けたまま直立する彼女がいた。


「どうしたの?踊らないの?」

『え、いや…私、踊るの下手で…』

「ここは、俺たちだけのダンスホール。誰も見ていない。だから、自由に踊ってもいいと思わない?」


そう言うと、呆れたように、だけど嬉しそうに笑って手をとった。


『一国の王子様がこんなお転婆令嬢と踊るだなんて、前代未聞ですね。』

「お転婆だって自覚、あるんだ。」

『えぇ。お転婆くらいじゃないと、何も楽しめずに終わってしまうもの!』


そう言いながらステップを踏む彼女は確かに、お世辞にもダンスが上手いとは言えなかった。だけど、心から楽しそうに踊る彼女をみると、型通りにダンスを踊るのも馬鹿馬鹿しくなる。

曲が終わり、自然と密着していた身体も離れる。


「…久しぶりにこんなにも楽しいダンスを踊ったよ。」

『それはそれは…よかったです。』


時計を見て、彼女は溜息をついた。


『さぁ、ウィル様。魔法が解ける時間です。またいつか、ただの男女の様に踊れる日を楽しみにしていますね。』


まるで、先程一緒に踊っていた女性とは別人の様な振る舞いで、お辞儀をする。


「リサって呼んでもいい?」

『え?』


突然の言葉に首をかしげる彼女。


「ウィルって呼んで。」

『それは…』

「君とは、王子と令嬢の関係じゃなくて、ただのウィルとリサの関係でいたい。」

『…私に劣らず、我儘なお方。二人きりの時は、そう呼びますね。』


まるで、もう二人きりで会うことは無いだろうと思っているであろう彼女はそう言った。


「俺はね、気に入ったら手放したくないんだよ。だから、リサも手放すつもりはないよ?」

『それって…』

「またね。」


そっと手を取り、手の甲にキスを落とすと、一気に赤くなった顔をしたリサが目を見開いていた。


青白い、優しい光が俺たちを照らす。
俺たちだけのダンスホール。
全て、手放すつもりなんてない。


「ウィル様?何かいいことでも?」


クロードが不思議そうに問う。


「あぁ、楽しみができたよ。」


次はいつ会えるだろうか。
次はパートナーとして、隣に立ってもらおう。


「次のパーティーはいつ?」

「来週ですね。」

「ネフェルト家の三女をパートナーにするから。声かけておいて。」


驚いた様に目を開くクロードを見ながらそっと目を閉じる。

ふと思い浮かぶのは、彼女の笑顔と一緒に踊った月光のダンスホールだけだった。


fin
 

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