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□拝啓、天国にいるお父さん
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拝啓、天国にいるお父さん。元気ですか。俺は5歳になりました。
俺はシャルルの幼稚園に通っています。生まれはアルタリアらしいけど、覚えていません。
お母さんも元気です。優しくて自慢のお母さんです。人に優しく出来る人になりなさいとよく言われます。お父さんがそうだったとよく言われて育ちました。

お父さんに会えたらいいのにって思うけどそれを言ったらお母さんが悲しそうな顔をするから言いません。
だけど会えたら一緒に泥遊び、サッカーをしたいです。

ルカ

*

「お兄ちゃん、何を見ているの?」

「俺が5歳だった時に幼稚園で書いた手紙。」

「なんだ、私は生まれていないのね。」

「あぁ、そうだな。」


もう15年も前のことなのか…

そんなことを思いながら手紙をそっと棚の引き出しにしまう。


「早く行きましょう?お父さんもお母さんも待ってるはずよ!」


ニコニコとした表情で俺の手を引っ張る7歳下の妹。


今日20歳を迎える俺。
なぜかあの時の記憶がふと蘇り、消えてはくれなかった。











ー拝啓、天国にいるお父さんー















『ルカ、準備できた?』

「うん!」


お母さんと手を繋ぎ、幼稚園へ向かう。今日は何をしようかななんて思いながら自然と鼻歌が出てくる。


『ご機嫌ね。』

「だって今日は早帰りだから!」

『ふふ、今日は外でお昼ご飯たべよっか!』

「やったー!」

『何食べたいか、決めておいてね。』


そんな話をしていたらあっという間に幼稚園。


「おはようございます!」

「おはようございます、ルカくん嬉しそうだね〜さては、今日は午前で終わる日だからでしょう!」

「ピンポーン!さすが先生!」

『朝からこの調子なんですよ。』

「そうなんですね、でもルカくんいつも明るい子ですから特別感はないんですけどね。」


笑いながら話しているお母さんと先生を見ていると、


「ルカー!早く遊ぼー!」


仲のいい友達が呼ぶ。


「今行く!じゃあね!お母さん!」

『仲良くね〜』

手を振るお母さんに手を振り返し、友達の元へ一直線。


「何して遊ぶ?」


いつもよりちょっぴり特別な日。だけどそんなこと忘れていつものように遊びに園庭へ足を向けた。


いつの間にか時間は経ち、あっという間に帰る時間になった。


「ルカ君、お母さんお迎えだよ〜」

「はーい!」


帰る準備をし、友達にバイバイと手を振り先生に挨拶する。


「先生さようなら!」

「さようなら、また明日ね!」


走って玄関に行けば俺の姿を見て笑っているお母さんの姿。


『ルカ、幼稚園楽しかった?』

「うん!」


幼稚園を出て手を繋ぎ、歩きながら今日会ったことを話す。


「先生がツルツルの泥団子の作り方教えてくれた!」

『泥団子ってツルツルになるの?』

「うん!先生が見せてくれた!すごかったよ!!俺も家に帰ったら作るんだ〜!」

『服汚さないでよ〜?』

「はーい!」


レストランにつき、椅子に座る。
美味しそうな匂いがたくさんしてお腹がキューって鳴いた。


「俺これ!」

『お子様ランチね。』


ピンポーンと音が鳴り、注文をする。
しばらくして出てきたご馳走はとても美味しそうで、いただきますというのも忘れて食べてしまった。


『あら、いただきますは?』

「いただきます!!」


食べているところをみて笑うお母さん、そんな笑っているところが大好き。

レストランを出て歩きながら考えることは、これから作る泥団子。
作って先生に自慢するんだ!


「リサさん?」


背の高い男の人から呼び止められたお母さん。俺の知らない人で、誰と聞こうと思ったけど聞けなかった。


「ア、アルベルトさん…」

「いきなり辞めたので驚きましたよ…ロベルト様は貴女のことずっと探しておられました。まさかシャルルにいるとは…」


お母さんは黙り込んでいる。
まるで、俺がお父さんの話をした時のように悲しい顔で。
こんな表情にさせるこの男に少しだけイラっとした。


「お母さんにこんな顔させるな!」

『ルカ!』


俺を隠すように立っていたお母さんの前に行き、そう言った。
すると男の人はすごく驚いた表情をしていた。


「…この子、」

『ルカ、行くわよ。』


慌てたように、そして俺を隠すようにお母さんは腕を引く。だけどそんなお母さんの腕をその人は引いた。


「リサさん、この子は貴女とロベルト様の子どもですね。」

『…違います。』

「リサさん…ロベルト様の幼少期からお使えしている私にその嘘は通用しませんよ。」


黙り込んでしまうお母さん。


「誰だよお前…」

「あぁ、そうですね。私、ロベルト様…貴方のお父様の執事です。」

「しつじ?何だそれ。それに俺、ロベルトなんて知らない!俺のお父さんはずっと前に死んだんだぞ!」

『ルカ…』

「そうでしょ?お母さん。」


何も言わずに俺を抱きしめたお母さん。少しだけ震えて泣いているのが分かった。


「貴方はお父さんが亡くなったと聞かされていたんですね。」

同じ目線になるようしゃがんでそう言った。


「場所を移しましょう。」

『…私の家に来てください。全てお話しします。』


小さな声でごめんねと言ったお母さん。


『ルカ、貴方にもちゃんと話すわね。貴方のお父さんのことよ。』


今日は午前で幼稚園が終わる特別な日で、美味しいご飯を食べてツルツルの泥団子を作るはずだったのに。

何が起きているのかいまいち分からず、お母さんの手を繋ぎながら得体の知れないアルベルトという男を睨みつけていた。
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