Kiss

□Turn Red
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「こ…れは…。」

「似っ合うーーーーッ‼︎‼︎」

「本当!可愛いーーーーーッ!」

スタイリストヌナ達の歓声をよそに、僕は鏡の中の見慣れない自分に戸惑っていた。

たしか茶髪って言ってなかったっけ?

でもどう見ても、鏡の中の自分の髪色は…

「やっぱチェリーレッドにして正解ねーーッ‼︎」

うん、そうだよね、チェリーレッドだよね…。







【Turn Red】









カムバックの曲は今までとは異なった、少し不良っぽいイメージで、衣装もヘアスタイルもガラリと変わった。
みんなそれぞれかっこいい感じになっていて、いつも“可愛い”と言われる僕もかっこいい感じになれるかも、と内心期待していた。だけど…

「やっぱ、僕にカッコイイは向いてないのかな?」

自分の髪をいじりながら、ため息をつく。

この後はもう宿舎に帰るだけなので、帽子を深く被って外に出る。辺りは暗いから、みんな気づかないようで特に髪のことにふれられない。

髪型くらいでウジウジしても仕方ない。そのうち見慣れるだろうと、気持ちを切り替えて、車に乗り込む。

「あれ?ギョンス今日髪色変えたんじゃなかったっけ?」

横に座ったジョンインが珍しく起きていて、こちらを凝視する。

「うん。でもあんまり似合ってないかも。」

「うーん、暗くてよくわからない。家帰ったら、ゆっくり見せて。」

「うん。」

そう答えて肩を引き寄せると、甘えるように僕に寄りかかり眠ってしまった。

宿舎に着いてリビングに入ると、さっそく帽子をとって、ジョンインにみせる。

「どう?」

目をいっぱいに開いて驚くジョンインをみて、ああ、やっぱ変だよね…と悲しくなってくる。

「ギョ「あーーーーーーーーッギョンスヒョン可愛い‼︎‼︎ッ」

ジョンインが何か言おうとした瞬間、タオの絶叫と共にジョンインが突き飛ばされる。

「カーワーイーイーーー!」「なんか赤ずきんちゃんみたい!」

チャンベクも加わって、いよいよ大騒ぎになる中、セフンの一言で息が止まる。




『クリスタルさんみたい。』




「……も、寝る。おやすみ。」

「「「「え?」」」」

なんだか感情が顔に出てしまいそうで、みんなが驚くのも構わず、部屋に滑りこむ。

そうなのだ。どんなに可愛いと言われても、僕は男の子で、本当の女の子みたいな可愛さなんてない。クリスタルそっくりの赤い髪は、そんな現実を突きつけているようで、苦しくなる。
鏡の中の自分を初めて見た時、クリスタルの真っ赤な髪を連想した。でも自分はクリスタルみたいな真っ赤な髪をしていても、彼女みたいな可愛さなんてなくて、可愛いと言われても、その差がどんどん心にのしかかった。
せめて男の子らしく、かっこ良くなりたかったけど、どちらも叶わず、悲しくて涙が出てくる。
男の子でも好きになってくれた恋人に、少しでも良く見られたい。いつも心の奥底に燻っているささやかな願いが、今日は自分を苦しめる。

「ギョンス、入るよ。」

ベッドにうつ伏せて涙を隠していると、ジョンインがそばまで来て髪を撫でてくれる。

「ねぇ、俺の感想は聞いてくれないの?」

口を開くと嗚咽がこぼれそうで、答えられずにいると、ジョンインが意外なことを話し出す。

「俺は、かっこ良くていいと思う。ギョンスらしい男らしさが引き立って、この色好き。」

そう言って髪に口づけを落として抱きしめてくる。

「本当に?かっこいい?」

「俺、嘘言ったことある?燃えるみたいな緋色が、ギョンスの意思の強さと重なって、かっこいいよ。」

ジョンインにかっこいいと言われ、バカみたいに顔が紅く染まっていく。だけど、まだ心に刺さった小さな棘がとれなくて、不安を口にする。

「だけど、クリスタルみたいに可愛くない。」

「クリスタル?ギョンスはクリスタルより可愛いよ?だって俺の恋人でしょ?」

笑っているけれど、見つめる瞳は真剣で、僕の不安も全部知ってるみたいに涙を拭ってくれる。

「ギョンスは恋人として可愛くて、男としてかっこいいよ。だから俺、他のやつが近づいてこないか、いつも心配。だって可愛いギョンスを好きな奴と、かっこいいギョンスを好きな奴がいるから、ライバルが2倍だもん。」

少し困ったみたいに笑うから、ギュっと抱きしめ返して肩に顔をうずめる。

「バカ。ありがとう。大好き。」

「バカは余計。ねぇ、もっとよく見せて。」

手で髪を掻き上げられ、地肌を指先でなぞられる感触に小さな棘も溶けて消える。

「うん、やっぱすごいイイ。前髪、こうやってあげると、すげーかっこいい。それに、色っぽい。」

色っぽい、なんて自分のイメージからかけ離れたことを言うジョンインにびっくりして見つめ返すと、その目は熱に帯びていて、自分を欲しているのが伝わってくる。

「どんどん大人っぽくなって、綺麗になって、色っぽくなって、本当、俺心配。
だから、ねぇ。どんなギョンスも俺のだって教えて。」

せっぱつまったみたいに唇に噛みつかれて、慌ててジョンインを押し返す。

「だめ!だってもうみんな部屋に戻ってくるよ!」

「大丈夫。ギョンス傷つけたから、慰める時間くれって言っといた。しばらく2人だけだよ。」

本当、なんて準備のいい…。

「お前、はじめから…」

「だってこんなに色づいた美味しそうなギョンス見て、我慢できないもん。」

そんな言葉にだまされたふりをして許してしまうのは、いろんな側面から僕をみて、どの側面からも僕を愛してくれる君だから。

「じゃあ、どんな僕も、全部お前のだって確かめて。」

髪に触れていたジョンインの手を取って、その手のひらに頬を寄せて噛みつけば、僕の髪みたいに、ジョンインが赤くなる。



あっ、ジョンインの頬から髪が色づいたみたい。



それとも僕の髪色がジョンインの頬を染めるのかな?




「あーーッも、どんなギョンスも破壊力はんぱないよ!」

真っ赤に染まったジョンインに、そのあと僕が真っ赤に染め上げられる。











可愛い僕も、

かっこいい僕も、

綺麗な僕も、

色っぽい僕も、

時々ブサイクな僕も、

君が好きと言ってくれるなら、全部最高の僕。

これからも、ずっと好きでいてね。

愛してるよ、ジョンイナ。





end










おまけ〜後日談〜

「おはよ、昨日はごめん。可愛い言い過ぎた。男だから、やっぱ可愛いは褒め言葉じゃないよな」

昨日あんまりに可愛いを連呼し過ぎて、ギョンスを傷つけたと思った俺は、朝食を作ってくれてるギョンスに謝る。
そうだよね、男なんだから可愛いばかり言われたら嫌だよね。 俺もわかる。やっぱかっこいいって言われる方が嬉しいもん。

「おはよ、ベク。こっちこそごめん。気にしないで。」

そう困ったように返してくれるギョンスはやっぱ可愛くて、昨日の今日なのにまた口を滑らせそうになる。

「ん、でもかっこいいよ。昨日と違って前髪上げるとまた雰囲気変わるね。」

「ありがとう。ジョンインもそう言ってくれた。可愛いは無理だから、かっこいいを目指そうと思って。」

「え?ギョンス可愛いよ?」

「僕は可愛くないよ。」

ええええーーッ⁈待て待て待て待て、この子何言ってんの?

「可愛いっていうのはクリスタルみたいなのだよ。」

はぁ?クリスタル?どっからそんな話に?

「ギョンス、待って。ギョンスはクリスタルより可愛いよ。」

「ありがとう。ベクもジョンインもおんなじこというね。」

クスクス笑いながら、「はい、この話はおしまい、みんなを起こしてきて」なんて言いながらパンをトースターに入れている。

自覚ねぇってこえー……………。

カイも俺も同じこというのは、単純で、俺もカイも好みが似てるからだ。目がクリッとした可愛い顔が好きだから、全くクリスタルとは系統が違う。
逆にギョンスがクリスタルを可愛いと思うのは、ギョンスの好みが、ああいう少し冷たそうな感じだからだろう。だってカイがそうだから。
てか、ギョンスは普通に男女関係なく可愛いのに、自分のことをわかっていない。今までもそう思うことが多々あったけど、マジかよ?っと驚く。
ギョンスに起こされて、眠そうにテーブルにうつ伏せるカイに同情の目を向ける。

「お前、大変な。あんな自覚ない恋人じゃ。」

聞いてないだろうと思って呟くと、

「あぁ。でもそこも含めて好きだから。手ェ出すなよ。あんたには自覚ありすぎる恋人がいんだから。」

そう威嚇して、また寝に入る。
大丈夫だよ、可愛いと思うけど、そういう対象じゃないから。

「ッはよ、ベクーーーーッ!どう?今日の俺もかっこいい?可愛い?」

後ろから俺の可愛い子ちゃんが抱きついて矢継ぎ早にまくし立てる。

「てか見えねーよ!」

「あっごめん、んーーーッチュ」

くるっと俺を簡単に回してキスしてくる。

「どうどう?」

「ん〜〜〜髪型以外は完ぺき。」

「やっぱーーーーーッもう早く髪伸びないかな?長い方がやっぱいい!」

こちらはこちらで、自覚ありすぎるから、髪型が気になるみたいで、毎日うるさい。

「たまにはいいじゃん。かっこ悪いお前も、可愛くて好きだよ。」

「ベクちゃん………。どんな俺も好きだなんて。俺って愛されてるぅぅぅッ!」

とっても前向きに俺を持ち上げてぐるぐる回す。

「オイッチャニョル!埃たつからやめろ!」

あっギョンスが怒った。

「だってベクが可愛いって言ってくれて嬉しくて!」

「は?可愛くないだろ。モンチッチ。」

「ひどい!ギョンスの赤ずきん!」

「はいはいはいはい、朝ごはんですよー」

起きてきたスホヒョンが新聞を広げながら、仲裁に入る。

「ぁの……入れないです。」

チャニョルが塞いだ入り口からチェンが遠慮深く声をだす。

「あっいい匂い〜俺このパン好き〜」
「チャニョリヒョン邪魔です。」

続々とみんながリビングに集まって、またいつもの朝がやってくる。

「「可愛くないッ」」

ギョンスとチャニョルが言いあって、互いにぷくっと頬を膨らます。そんなへんな顔も、互いの恋人からすれば可愛くて、笑ってしまう。

これが、俺らの毎朝。

可愛い恋人と楽しい仲間。

これがあるから毎日頑張れる。



さっ、今日も頑張りますか!


end

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