Kiss
□Stay Gold
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「ギョンスくん!待って〜、間に合って良かった!」
練習を終えて事務所を出る寸前、スタイリストヌナの大きな声に呼び止められる。
「こんばんは。どうしたんですか?」
「これ!」
そう言って差し出された袋の中には、色んなものが入っていて、よく見るとシャンプーやトリートメントのようだった。
「えっと…これ、なんですか?」
「これ、カイくん用のヘアケア剤。カイくん、面倒くさがってやらないだろうから、ギョンスくん、よろしく‼︎」
「え?」
戸惑う僕に追い打ちをかけるように、ヌナはヌナらしからぬ力で僕に袋を握らせ、
「カイ君の美髪は、君の手にかかっている‼︎」
そう言うと、頼んだよ〜!と手を振りながら、立ち去ってしまった。
「え、えぇッ?」
【Stay Gold】
カムバックして、みんなめまぐるしくヘアスタイルが変わる中、僕とジョンインはさほど大きなチェンジがなく、(といっても、ジョンインのコーンロウヘアには正直驚いたけど)ダークトーンのままだった。
そういえば今日、スタイリストさんがまた何人かヘアスタイルが変わるみたいに言っていた。午後はダンス組と別行動だったし、ジョンインがそうだったのかと理解する。
一体どんな髪型になっているんだろう?気になって先に車に乗り込んでいたジョンインを見るが、頭を隠すように深くフードを被って寝ているので、よくわからない。
とりあえずヌナに渡された袋の中身は帰ってから見ることにして僕も寝ることにした。
宿舎に着いてもまだ寝ているジョンインを起こして車から出る。
「ギョンス、これなに?」
眠そうに目をこすりながら袋を持ってくれる。女の子じゃないからいいのに、と思うがなんとなく嬉しくてお願いする。
「お前のヘアケア剤だって。なぁ、今どんな髪型なの?」
ようやく宿舎に入り、フードを外す。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「変?」
ちょっと不安そうに聞くジョンインの髪は、見事なプラチナブロンドに染められていて、今までとまったく雰囲気が違う。
「不良みたい。」
「!!!!!!?」
「あっ、悪い意味じゃなくて、今回の曲のイメージとあってていいよ!」
僕の言葉にショックを受けたジョンインに慌てて言葉を繋げるが、遅かった。
「どっちがいい?」
と更に聞いてくる。
時々ジョンインは答えに困るようなことを聞く。まだ見慣れていないだけで、今の髪型も似合っているとは思う。ただ、自分の好みを言えば前のダークトーンの髪色の方が好きだった。でもそう言えばまたショックを受けるだろうし、と答えに詰まる僕に、
「ねぇ?」
と少しイラつき気味に追い打ちをかける。仕方なく素直に答える。
「僕は前の方が好き。今のも似合うけど、なんか不良っぽいイメージは僕の知ってる優しいジョンインのイメージと違って、違和感感じる。」
「……ギョ「あっカイ、金髪になったんだ!似合ってんじゃん!」
「本当だ!俺も金髪が良かったな!」
「いいじゃん!似合う似合う!」
「ああでもヒョン、髪の毛ちょー傷みますよ。」
金髪になったジョンインを見たみんなが集まって、口々に感想を述べて頭をわしわしつかみ出す。
「やめろよ!ちょ、くすぐったい!おい、セフン!ドサクサに紛れてくすぐんな!」
大騒ぎになり話題がうやむやになったのをいいことに、さっさと部屋に入る。
これで忘れてくれるといいけれど、そう思いながらリビングに戻ると、むくれたジョンインがソファで不貞腐れている。あぁやっぱダメか、とため息をつくと、気づいたようで、
「これ!ギョンスがやってくれんだろ!」
と袋を突き出してくる。思い出して袋を開けると、ヌナからの使い方の取説も入っている。
「まず、髪をお湯で流して整髪料を落として、この赤いのをつけて、そのあとシャンプーして、コンディショナー、ヘアマスク、でまた流して最後にこのオイル塗って、」
「行くぞ!」
「どこに?」
「風呂に決まってんだろ!」
どうやら本当に全部僕にやってもらうつもりみたいで、手を引いてズンズン進んでいく。
「お湯張んないと。」
「さっきくすぐった罰にセフンに張らせた!」
本当こういうときは準備がいいね…と苦笑するしかない。仕方ないなぁと思いながら、部屋から自分とジョンインの着替えやタオルをとって、早速とりかかる。
「はい、じゃあ目、閉じて。」
ん、と言って目を瞑るジョンインの頭に温かいシャワーをかける。金色の髪は、すでに少し軋んだ感じがするので、指に絡まないよう優しく梳いて流す。プレシャンプーと書かれたトリートメントでマッサージしてあげると、気持ちよさそうに力を抜いて寄りかかってくる。
「ほら、これでしばらく置かないといけないから、その間に体洗って!」
「体も洗ってくんないの?」
「甘えない!」
ちぇ、と言いながら体を洗い出すジョンインの横で僕も体を洗う。金髪を掻きあげる姿はなんだかやっぱりイメージと違って、不思議な感じがしてクスっと笑ってしまう。
「やっぱ変?」
「違うよ。なんていうか、甘えん坊のジョンイナが、不良っぽい感じっていうのが、アンバランスで。みんなの前ではカッコつけてるけど、僕の前だとこんなに甘えん坊じゃん?」
「甘えん坊じゃないよ!」
「じゃあ、あとは自分でやる?」
「うそうそ、甘えん坊です!」
慌てるジョンインと笑いながら、体を流し合う。
一通り終えてお風呂から出る頃には、すっかりジョンインの機嫌も良くなって、気持ちよさそうに、髪を乾かされている。
「はい、これでオッケー!」
声をかけても返事がないので覗きこめば、すうすうと寝息をたてて眠っている。
眠っているとあどけない面影が際立ち、可愛らしい。しばらく眺めてから、このままでは風邪をひいてしまうので、えいっと抱え上げて部屋に運んで寝かせる。
幼いのにときどきみせる大人の男のような顔。鋭い眼差しにゆらめくどこか危うい幼さ。そんなアンバランスさがジョンインの魅力でもある。
だけど、と思う。
自分だけが知っている、年相応な彼がやはり一番好きだ。
こうして自分に甘え、無防備な姿をみせる彼を独り占めする幸せ。
「おやすみ、ジョンイナ。まだまだ僕の前ではそのままでいてね。」
おまけ
「ジョンイナ、髪、色抜いたわりに傷んでないね?」
久しぶりに会ったテミンが俺の髪に触れてつぶやく。
ふふん、と笑いかえすと、感じ取ったようで、
「あっ嫌な予感する。その顔はきっとギョンスヒョン絡みだ。」
「その通り。毎日ギョンスが手入れしてくれるおかげ。」
あれから毎日ギョンスが手入れをしてくれるおかげで、傷みも少なく、周りからも髪を褒められる。
だけどそんなことより、毎日お風呂に一緒に入ってその日あったことを話せるのが、嬉しくてたまらない。ほとんど1日中一緒で、同じものを見ていても、感じ方は違う。自分よりももっと思慮深くものを考えるギョンスの大人びた一面を知ると、頼もしく、ますます好きになる。
「あーはいはい、のろけ話はいらないから。本当、ギョンスヒョンは良くできた奥さんだね。」
最高の褒め言葉を聞きながら、ジョンインは思う。
こんな嬉しいおまけがつくなら、髪型を変えるのも悪くないな、と。
end