Kiss

□Trick & Treat前編
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「「「トリックオアトリート!」」」

「はい、どうぞ!」

今日何度目かになるハロウィンの決まり文句に、ギョンスが律儀にこたえる。

「それいくつあんの?」

用意されているお菓子に幾分呆れつつ聞くと、

「一応メンバー分と、親しいヒョンたちの数を考えて、50個用意したよ。」

「そうなんだ…」

すでに半分以上なくなっており、それだけ配っているということなのだろう。はぁ、とため息をつくと、

「トリックオアトリート!」

よく知った元気な声が聞こえてくる。

「おい、テミナ!お前は遠慮しろよ!」

「なんで?ギョンスヒョン、怖い悪魔が怒ってる〜」

「こら、ジョンイン!はいテミン、遠慮しないで。」

「わぁーい、ギョンスヒョンの手作りクッキーだぁ〜!」

そうなのだ。ギョンスが配っているのは、ギョンスお手製のアイシングクッキー。かぼちゃの形やおばけの形を型取った、可愛らしいクッキーに色とりどりのデコレーションがされていて、みんなのハートを鷲掴みしているのだ。

さっきだって少女時代のサニー姉さんに、

「すごい!なにこれマジ可愛い!いやーんギョンちゃん、いいお嫁さんになるわぁ〜なんならうちに嫁ぐ?」

なんて言われていたし、superjuniorのカンインヒョンにも、

「さすがギョンス。お前本当にいい子だなぁ。」

なんてがっつり抱きしめられてたし、とにかく面白くない。

しかもさっきからずっとその対応でちっとも2人きりになれないことがさらに不満を募らせる。

「そんなに怒んなよ?ホテルに帰れば2人きりなんだから、いいじゃん?」

テミナの言うとおり、今日の宿泊は同じ部屋で、久々に2人きりになれる。だからこそ早く帰りたいのだ。

「あーっうるさい!帰るぞッ」

いつもだったらギョンスを待つけれど、これ以上ギョンスが誰かと仲良くしているのを見ていたら、何か言ってしまいそうで、テミナをひっつかんで先に帰ってしまった。





【Trick & Treat】





「ただいま。ジョンイナ?」

部屋に帰ってふて寝していると、ギョンスの機嫌を伺うような声に起こされる。

「なに?」

「なんか怒ってない?」

「怒ってないよ。」

そう言いつつも、つい不機嫌な声になってしまう。

「そう…クッキー、ジョンイナの分もあるんだけど…」

「いらない。もう歯ぁ磨いたし。」

いつもだったら嬉しいのに、今日はみんなと同じものをもらいたくなくて、断ってしまう。

「あ、うん。ごめん。僕もシャワー浴びてくるね。」

小さく謝るギョンスに少し心が痛むけど、今夜はなんだか優しくできない。

頭ではわかってる。今回のイライラは自分のわがままだということも、ギョンスは何も悪くない。
だけど、恋人なんだから少しは自分だけを特別に扱ってほしい、自分だけを見て欲しい、と甘える心を止められない。

そんなことを考えていると、ギョンスがシャワーから出てきて、慌てて寝たフリをする。

「ジョンイナ…寝ちゃったよね…」

そう言って、俺のベッドに腰掛けて優しく髪をすいてくれる。その感触に、荒んだ心が少し和らぐ。

「せっかく用意したけど、無駄になっちゃったな。」

ぽそりと漏れた言葉に「何が?」と心の中で返す。「おやすみ、」と頬に唇が触れたとき、コッソリ目を開けてみて、驚きで、一気に目が覚める。

「ギョンス、そのカッコ…」

「ジョ、ジョンイナ?」

びっくりして立ち上がろうとするギョンスを慌てて掴んでベッドに押し付ける。

「い、いつから起きてたの⁈」

「今起きたとこ。それより、ギョンス、なんでそのカッコしてるの?」

「ハ、ハロウィンの仮装………………だってジョンイナ、前に恋人にして欲しい仮装で、メイドさんって言ってたじゃん!だから、僕似合わないけど、驚かせようと思って!」

「ううん、すっごい似合ってる。」

本当、すっごい似合ってる。シンプルな黒のメイドさんの衣装はスカートが短く、中に履いた白いチュールがフワフワとボリュームをだしている。足には太ももまである黒のニーハイソックスがガーターベルトで留めてあり、背徳的な欲望を掻き立てる。ちゃんと頭にもちょこんとヘッドドレスをのせていて、まさに自分の想像していたメイドさんだった。

「そんなにまじまじ見ないで!」

「いや、だって…これどうしたの?」

「この間、サニー姉さんにポロッと漏らしたら“あたしに任せろ!”って。で今日これ渡されて…」

さっきまでのイライラが嘘のように晴れて行く。なんて現金なんだ自分、と思うが、自分のためにわざわざ用意してくれていたのかと思うと、嬉しくてたまらない。

「もー脱ぐ!」

「だめ!」

顔を真っ赤にして逃げようとするギョンスを抑え込み、ニッコリ笑って言う。

「トリックアンドトリート!」

「それを言うならトリックオアトリートだよ!」

「あってるよ。だって、いたずらもご褒美も欲しいから。」

口をあけて何か言いたげにしたギョンスの口を自分の口で塞ぐ。

Trick & Treat!

いたずらもご褒美も!

さあ、どっちもちょうだい!





つづく

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