Kiss
□まだ熟さない
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【まだ熟さない】
「それでね、ウーファンとルーとイーシンとね。。。。!! セフナ聞いてる?」
ここはリビング。かれこれどれくらいだろう、タオが一方的に話すのをゲーム片手に聞きながら、セフンは時計に目を移す。
みんなはもう寝たり、まだ騒ぐ組はベクニョルルームで騒いでいる。
「だいたい聞いてるよ。ねぇタオ、もう遅いしそろそろ寝よう。」
「ゃだ。だって…」
そういって駄々をこねるタオは、まるで子供のようで、とても年上とは思えない。先を促すように優しく頬を撫でると、ん、と鼻から甘え声を漏らして
「だって寝るときは別々だからイャ」
そんな可愛いわがままを言う。だけど僕はタオがなかなか寝ない本当の理由も知っている。
「わがままはダメ。早く寝ないと肌が荒れちゃうよ?」
「うーー。それはダメ。でも…………」
「でもなぁに?」
「おやすみのキスして…」
「何?」
「おやすみのキスしてってば!」
そうこれが本当の理由。
あの夜キスしすぎて倒れたタオは、夢の中で僕と一緒にいる夢を見て、それはそれは幸せだったらしい。(ルハニヒョンが教えてくれた。相談する相手が悪かったね、タオ。まぁ僕には僥倖だからいいけれど)で、タオの頭にはすっかり“キスして寝ると夢でも一緒”と刷り込まれたようで、それからというもの、寝る前に僕にキスをねだるのが習慣になった。
とはいえ共同生活。みんながいる前では、さすがのタオも言い出せず、恥ずかしさも伴って、こうやってみんながいなくなるまで話すのが日常になった。
「タオはそんなにキスが好きなの?」
「違う、セフナが好きなの。」
そして僕は、こうして毎日タオから『セフナが好き』と言う言葉を引き出し、僕への想いを確認させ、刷り込むのが習慣になった。
「タオは本当にワガママだね。」
そう嘯いて軽く唇を合わせてすぐ離せば、不満そうなタオが、もっとと目で訴える。それでも動かずにいれば、焦れたタオが自分から唇を合わせてくる。
薄い唇で頬や鼻にキスを落として、小さな舌で一生懸命舐めて僕の唇を開こうとする様はまるで猫のようで、くすぐったさに思わず笑みが漏れる。
自分からしているのに、すっかり息をあげて身悶えるタオにそろそろご褒美を、と閉ざした唇を開いて僕の中に導いてやる。
「ハフ……あむ…ふっ!あっあぅ!」
一気に追い詰めて、逃げようとする体を抑えつければ、与えられる全てを全部こぼさないようにと、しっかり僕に抱きついて、すがりつく。
「セ…フナ…!あぅ…もっと…いっ…ぱぃ…ちょ、だぃ」
口づけながらタオの体をきつく抱きしめて、深く、深く、僕を覚えさせる。求めれば、与えられると。得るには欲せねばならないと。
やがてクッタリしたタオが僕の腕の中で夢に落ちるころ、ようやく唇を離してやる。部屋に運んでやれば、ミンソギヒョンが、
「お前もたいがい大変な。」
なんてタオの髪を撫でながら言う。
「まぁ。でも躾ははじめが大事ですから。」
「ハハッ!ま、マンネはそれくらいじゃなきゃな!」
「何何ー?あっタオまたリビングで寝ちゃったの?もーダメな子!でもダメな子ほどかわいいんだよねー、ねぇチャニョル、手ぇ貸して!」
ベクニョルコンビがタオを受け取り、タオに布団をかけてやったり、タイマーをセットしてくれるので、僕も部屋に戻って、寝る準備をする。
「……今お前、すっげ悪い顔してる。」
「ルハニヒョン、起きてるなら初めからそう言って下さい。てかギョンスヒョンは?」
「あ?カイんとこだよ。」
「あ、そですか。」
「なぁまだタオに教えてやんねーの?お前も好きなくせに。」
「まだダメです。」
「はぁーーーっ。あっそ。ほどほどにしろよ?意外とあいつ必死だぞ?」
「ルハニヒョン、この話はもうおしまい。寝ますよ?」
「はいはーい、まったく、ホント食えねーマンネだな!おやすみ!」
「おやすみなさい。」
布団に入って考える。タオは確かに、僕への想いを自覚しはじめている。少しづつだけど、確実に、求め始めている。
だけど、まだ充分じゃない。ルハニヒョンや、クリスヒョンに助けを求めているうちは、まだダメだ。
欲しいなら、僕にもっと求めればいい。僕に問い詰めればいい。もっと僕だけを欲すればいい。
君を確実に僕の中に堕としてあげる。
気づいた時には、もう僕しか助けられないほどに。
だけど、その時はもう遅い。
君はただ僕にすがりつくしかない。
僕の中から逃がしはしない。
永遠に僕の中に閉じ込める。
今はまだ、与えない。
時が熟すまで。