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□月夜に猫を憂う。
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久々に練習が空いた土曜日の午後。イライラとしながらスマホを取り出すが、新しいメッセージはない。
「はぁ・・・なんで僕がこんなにやきもきしなきゃなんない訳?」
午前の練習が終わると、急いでシャワーを浴びて駅まで来たというのに。約束の時間になっても彼は連絡すら寄越さない。
あの意地の悪そうな目つきの彼に、
「ね、眼鏡君。俺と付き合おっか?」
と言われたのは随分前のことだ。
合同合宿で自主練に無理やり付き合わされていた時に、さらっと言われたその台詞。最初は意味が理解できずに、「はぁ・・・」と軽蔑の眼差しで返せば、
「え?OKってことでいいの?」
と聞かれたので、つい意地になって、
「さぁ。俺をその気にさせて頂ければ。」
と言ったのが運の尽きだった。
その後、無理やり体育館裏に連れて行かれて、強引に唇を奪われた。練習で汗だくになった身体をまさぐられて、不快感で抵抗したはずなのに、いつの間にか快感に摩り替わっていて・・・
結局そのまま、そこで最後までされてしまった。
それから、ズルズルとそんな関係が続いていた。
普通の恋人とは違う。
男同士で、遠距離で。しかも好きだなんだと愛の言葉を囁かれたことは一度もない。ただ、時間が合えばお互いに会いに行って、毎回へとへとになるまで組み敷かれる。
一体なぜ自分でもこの関係を続けているのか理解できない。更に・・・自分を待たせている彼に、少し焦がれるような気持ちを抱いたことで、更に焦りが加速する。
(僕が・・・黒尾さんに・・・会いたがってる・・・?)
カッと1人で頬が熱くなるのを感じた瞬間、耳元に吐息がかかる。
「何?駅で1人で盛ってんの?」
「・・・・なっ!」
バッと振り払えば、ニヤニヤと笑みを浮かべた黒尾が立っていた。
「・・・どこ行ってたんですか、連絡も寄越さずに・・・」
「え?眼鏡君、俺を待ちわびてたの?可愛いとこあんじゃん。」
「・・・遅れることが非常識だと言いたいだけです。」
「ごめんよ〜、ちょっとトイレに行ってただけだって。スネんなよ。」
がばっと肩を組んできて、再度耳元で囁く。
「後で最高にヨクしてやるからよ、な?」
―ぞくり。
甘い快感が走り、目を伏せる。
ダメだ。
毎回毎回・・・この人には翻弄されてばかりだ。
(どうせ・・・身体だけが目的の癖に・・・)
無意識に切なくなる。悟られないように、じろりと睨み返せば、「怖いね〜。」とへらへらと笑っていた。
ふらふらと街を歩きながら、黒尾についていく。・・・またホテルにでも行くのだろうか?それとも以前行ったことのある、自分の家に?
そんなことを考えながら、ふとすれ違うカップルが目に入る。
楽しそうに笑う女性。当たり前のように男性の手を握り、はしゃぐその姿。ショーケースの色とりどりのケーキを見ながらどれにしようか迷う姿にいつの間にか目を奪われていた。
「な、ツッキー。たまにはデートしてみるか?」
「・・・え?」
一瞬。
嬉しくなって・・・
すぐ、その思考は振り払った。いつものムスっとした表情に自然に切り替える。
でも、なんで?
今までそんなことしたことなかったのに・・・。まさか、今の無意識の視線に感づかれたのか?
ダメだ。
この、自分より何枚も上手なこの人に本心を悟られてはいけない。
絶対に・・・
「別に構いません。女じゃないんで、そういうの興味ありません。」
「ええ〜ツッキー甘いもの好きなんじゃないの?」
「関係ないでしょ。早くシましょうよ。」
「いいじゃん、まぁまぁ!俺もちょっと小腹空いたし、な!」
ぐいっと手を引かれて、目に入ったカフェに引き入れられる。
「ちょっと・・・!」
「まぁまぁ。な、どれがいい?先輩がおごってやるよ。」
「・・・。」
「もう〜、入っちまったんだから、諦めて頼めよ。」
頭に手を置かれて、再度「な?」と言われると、またも頬が熱くなって、それを隠すようにぶっきらぼうに呟いた。
「・・・ショートケーキ。」
「はいよ、了解。」