君が照らしてくれた道
□もう一つの未来
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翌朝、すっかり雨は止んで、窓から差し込む朝の光が眩しくて雄一は少しずつ意識を浮上させた。
目はまだ開けられないままだったが、隣の温もりを求めて手を伸ばす。
しかしそこに詩音の感触はなく、不安になってようやく目を開けた。
やはりそこに詩音の姿はない。
慌てて体を起こしたが、その不安はすぐ解消された。
リビングのほうから、何やら美味しそうな香りがする。
ゆっくりベッドから抜け出すと、リビングへと向かう。
キッチンに立つ詩音の後ろ姿を確認し、雄一はホッと胸を撫で下ろした。
雄一が起きたことに気づかない詩音は、突然後ろから抱きしめられ、驚いて手を止めた。
「ビックリしたぁ!雄ちゃん?」
「起きたら隣にいないから、またどっか行っちゃったのかと思ってビビったじゃん。勝手にいなくなんなよ。」
「あたし昨日何も食べてないから、お腹減っちゃって。それにすぐ出て行かなくちゃいけないにしても、ここあたしんちだし、他にどこにも行くわけないじゃん。」
振り返って雄一と目を合わす。
「雄ちゃん朝ご飯食べる人?」
「うん、食べる。」
「じゃあもうすぐできるから、シャワー入ってきなよ。」
「借りていいの?」
「うん。タオル置いてあるから。」
嫁のようなその振る舞いに、雄一がキュンとしたのは言うまでもない。
とりあえずその熱を誤魔化そうと、雄一はシャワーへと急いだ。
シャワーから出て軽く髪を乾かすと、詩音が用意してくれた朝食が並んだテーブルにつく。
「在り合わせで作ったからこんなのしかできなかったけど。」
とは言っているが、炊きたてのご飯にみそ汁、おかずもいくつか並んでいる。
「いや、十分だし。いただきます。」
「どうぞ。」
みそ汁を一口飲んで、雄一は何とも言えない感情に浸る。
「うまい!詩音料理上手いな。」
「そりゃどうも。」
「結婚したら詩音のこのみそ汁毎日飲めるのかぁ。」
「…あれ本気だったの?」
「本気だよ。俺が冗談であんなこと言えないってわかってるだろ?」
昨夜のことを思い出し、突然恥ずかしくなる詩音。
「なぁ、俺ここに住んでいい?」
「は?」
「ここからのほうが会社も近いし、広いから俺んちよりはいいと思うんだ。」
「雄ちゃんさっきのあたしの話聞いてた?早く住むとこ見つけてここ出て行かなきゃいけないの。」
「うん、だから、住むとこ決まるまでさ。ここほど広いところは無理だけど、二人住んでも狭くないとこくらいは俺借りられるからさ。俺の部屋ももう更新切れるし。」
「は?それってどういう……」
動揺した詩音が真相を聞こうとした時、雄一の携帯が鳴った。
「あ、上田からだ。」
「たっちゃん?」
詩音に向かって頷き、雄一は電話を取る。
「あい。」
『おぅ、中丸おはよ。』
「おはよー。」
『オマエ今どこにいんの?』
「どこって……」
『いや、今オマエんち来たとこなんだけど、インターホン鳴らしても出ないからまだ寝てんのかと思って電話してみたんだけど。』
「えっ!?」
『起きてんなら開けて。』
「いやっ!違っ!今さっ、今、そのっ、友達んちにいるんだよ。だから…」
『友達?』
「そう。会社の同僚。」
『オマエ、昨日詩音んち行ったんだよな?』
「行ったよっ!行ったけどっ、大丈夫そうだからすぐ帰ったんだよっ!そしたらその帰り道でちょうど同僚から電話かかって来て、家で飲んでるから来いって。んで、そのまま朝まで…」
『ふぅん。』
竜也相手に誤魔化し切れるとでも思ったのか。
竜也じゃなくてもこんなにどもっていればバレるのに。
「何か用事あった?」
『んや、ヒマだったから。』
「何だよそれ。」
『詩音のことも気になってたし。でも大丈夫ならよかった。』
「あぁ。皆で集まろうって言ってたよ。」
『そっか。じゃあ俺も連絡してみよっと♪』
「お、おぅ。」
『んじゃね中丸。友達によろしく。』
意味深な笑いを含んでそう言うと、竜也は電話を切った。
「たっちゃん雄ちゃんちにいるの?」
「なんか来たらしい。危ね。バレるとこだった。」
バレたところで竜也は何とも思わないだろうが、雄一は昨日からずっと何か悪いことをしているような気分だった。
「いつも勝手に来るヤツではあるけど、『今から行く』ぐらいは連絡あるのに。」
なんだか抜き打ちテストみたいだ、と雄一は思った。
相変わらずエスパーな竜也に苦笑いする雄一と詩音なのであった。