君が照らしてくれた道
□とうめいなうた
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「詩音〜!これここでいいの?」
「うん、ありがとう。」
「上田!これ運ぶの手伝って!」
「これなら俺一人でいける。」
「マジかよ。」
「俺の腕力ナメんなよ。」
ひょいと本棚を持ち上げる竜也に目を丸くする雄一。
「オマエはクッションでも運んどけヘタレ。」
「誰がヘタレじゃ!」
ようやく良い物件を見つけ引っ越すことが決まった雄一と詩音。
最初は業者に頼むつもりでいたが、引越し業者で働く隆平に相談すると特別に小さなトラック1台用意して無料でやってくれると言う。
さすがにそれは悪いと断ったが、「俺が休みの日にトラック出すだけやし、手伝いはアイツらにやらせるから。」と言われ全員集合での引越し作業となった。
「皆本当にありがとう。お疲れさま。」
作業が一段落したところで新居となったキッチンで詩音が蕎麦を茹でて持ってきた。
「わぁい!お腹空いた!」
「皆で食べよう!」
「てかさ、引越し蕎麦って近所に挨拶する時に配るもんなんじゃないの?」
「ええやん別に。そんな細かいこと気にせんでも。」
「それより隆ちゃん、トラック出してくれて本当ありがとね。休みの日まで働かせちゃって。」
「ええって別に!好きでやってんねんから!」
詩音は手伝ってくれたメンバー一人一人に心付けを渡した。
「もう!いらないよこんなの!」
「気持ちだから。受け取って。」
そう答えたのは雄一だった。
「なんか夫婦みたい。」
「もう夫婦みたいなもんじゃん。」
「違うもん!まだ…」
「まだ、ねぇ?」
顔を赤くして下を向く詩音をまりあがからかう。
「もうっ!」
「ヤバ〜イ!照れてる詩音ちょー可愛い〜!」
そう言って抱きつこうとする竜也の腕をガッチリと掴む雄一。
「中丸が傍にいてくれるならもう安心だな。ちょっと寂しい気もするけど。」
「俊ちゃん…」
詩音の頭を撫で立ち上がる俊介。
「ごめん、俺もう行かなきゃ。」
「どこに?」
「打ち合わせ。」
「は?何の?仕事あったの?」
「いや……結婚式…」
俊介の言葉に全員が目を点にする。
「俺、結婚するんだ。」
「はぁ〜っ!?」
全員が雄叫びをあげた。
「結婚って、誰とっ!?」
「そりゃまぁ、彼女と。」
「そんな人いたんだ!」
「いるよ。ずっと。10年前から。」
「えっ!?」
「もしかして、高校ん時から付きおうてた人?」
「うん。まぁ…」
「そうだったんだぁ…」
「全然知らなかった…」
詩音が少し寂しそうに下を向く。
「なんか照れ臭いじゃん、そういうの。」
俊介が恥ずかしそうに頭を掻く。
「詩音には中丸がいてくれるから、これで俺も安心して結婚できるよ。」
「何それ。保護者?」
「ん〜、例えるなら双子の兄貴の気分?」
生まれた時から家が向かい同士で、家族ぐるみで仲が良くて、本当の兄妹みたいだった二人にとっては、家族が巣立つような、そんな気分だった。
「それでさ…詩音に、お願いがあるんだけど…」
「何?」
「実は彼女、詩音の歌大好きなんだ。」
俊介は少し複雑そうな顔でそう打ち明けた。
「彼女には、詩音のこと話したことなくて。でも学祭の時から詩音のファンになったみたいで、ライブに行ったりとかCDも買ったりしてて、でもなんとなく幼なじみだって言えなくてさ。つい最近になって打ち明けたんだ。」
「そうだったの。」
「何でもっと早く言ってくれなかったんだって怒られたよ。」
苦笑いする俊介が何を言いたいのかイマイチ汲み取れない詩音。
「あの時も…さ、彼女、ずっと詩音のこと心配してたよ。『もう歌聴けないのかな』って、寂しそうで……確かに、良く思ってない人も沢山いたよ。これからもバッシング受けることもあるかもしれない。けどさ…昔から詩音の歌が好きで、詩音の歌の魅力を知ってる人達は、ちゃんと詩音の言葉を信じてるし、詩音の味方だから。詩音のこと待ってる人だってきっと沢山いるからさ。だから…歌、やめんなよ?」
「俊ちゃん…」
「どんな形でもいいからさ、歌えよ。」
詩音の目に涙が光る。
「だからさ、歌ってくんない?披露宴で。」
「え?」
「彼女へのサプライズ。協力してよ。多分泣いて喜ぶからさ。」
「ほんなら、俺らバックバンドやろか?」
「さんせー!」
隆平の提案に竜也が乗る。
「詩音、やろうよ!」
みはるも笑顔で呼び掛ける。
「…うん。わかった。歌う!」
「ありがとう。彼女喜ぶよ。」
サプライズが決まった俊介は嬉しそうに部屋を出る。
「招待状できたら送るから。」
「おぅ。ありがとな。」
「中丸、詩音のことよろしく。」
「言われなくても。」
玄関で見送る雄一にそう言うと、俊介は婚約者の元へと急いでいった。