君が照らしてくれた道
□もう一つの未来
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暗い寝室のベッドに、裸のまま毛布だけかけて並んで仰向けに寝転んだまま、息を整える。
雨が窓を叩く音だけが聞こえている。
「雨は嫌いだけど夜に部屋の中で聞こえる雨の音は好き。」
いつだったか詩音が言ってたなと、雄一はぼんやり思っていた。
突然押しかけて、泣いて、抱きしめて、キスして、抱き合って、この数時間であまりにも速い展開だったにも関わらず、沈黙したままでも不思議と気まずさはなかった。
「なぁ、」
そんな中、雄一が天井を向いたまま口を開く。
「ん?」
「…結婚しよう?」
「……この状況で言う?そういうこと。」
詩音は雄一の言葉に特に驚きもせず、そう言った後思わず笑ってしまった。
「俺、ずっと詩音が好きだった。高校の頃から、ずっと。」
雄一が詩音の方に体を向き直し、そう続けた。
「詩音の歌聴くまではクラスメイトの一人ぐらいにしか思ってなかった。殆んど話したこともなかったし。でも、詩音の歌聴いた瞬間、歌声だけじゃなくて、詩音にも堕ちたんだ。」
詩音も黙って雄一の方に顔を向けて聞いていた。
「でも詩音はいっつも歌のことしか考えてなくて、歌しか興味ないって感じで、だから恋愛なんて全然興味ないんだろうなって思って、自分の気持ちずっと隠してた。なのにオマエ、3年の野球部の先輩に告白されたら簡単に付き合っちゃうし…」
「あれは!」
年頃だったし、野球部の先輩ってなんだかステキっていう軽い気持ちで付き合っただけだった。
しかも恋人らしいことなど殆んどしないまま別れてしまった相手だ。
「恋愛に興味あったんなら気持ち伝えればよかったって一瞬後悔したけど、告白したって付き合えてたとは限らないもんな。それにフラれて関係壊れるのもヤだったし。だから俺も諦めるために告ってくれたコと付き合ってみたりしたけど、やっぱダメで…」
雄一が少しだけ詩音と距離を詰める。
「その後も何人かと付き合ったけど、いっつも長続きしなかった。いっつも同じ理由でフラれてた。
『優しいけど気持ちを感じない。雄一は私じゃない誰かを見てる』って。
その度に、詩音のこと諦めきれてないんだって、詩音を超えられる相手はいないんだって思い知らされた。
詩音に会う度に、やっぱり好きだなって思っちゃうんだよ。」
「知ってたよ。雄ちゃんの気持ち。ずっと。」
「え?」
「だって、皆から言われてたもん。まりあとか、しつこいぐらい。皆して、『中丸の気持ちに応えてやれ』とか、『中丸と付き合え』とか…」
「マジかよ…」
「でもあたし、雄ちゃんのことちょっと怖かったんだ。」
「怖い?俺が?」
「あたし、人に嫌われるのが怖くて、愚痴ったり弱音吐いたら皆に嫌われちゃうかもって思ってだんだん本音言えなくなった。
だからいっつも笑ってればいいって本音隠すようになって。でも雄ちゃんだけはいつも敏感に気づくから…」
「そりゃあ、まぁ…いっつも詩音のこと見てたし…」
「だから雄ちゃんにはいつか見破られるって、怖かった。まぁ実際見破られてたけど。」
「オマエさぁ、アイツらがそんなことで嫌うような浅い付き合いしてると思う?アイツらだってしょっちゅう愚痴ってんじゃん。」
「そうだけど…」
「わかってる。詩音だけは夢叶えられたんだもんな。諦めたバンドメンバーの前で弱音は吐けないよな。」
「なっ!」
何でわかるの?というような詩音の顔を見て、雄一は可笑しくなった。
「雄ちゃんは、何でもお見通しだね。」
「うん。だからさ、これからは何もガマンするなよ。ちゃんと言え。弱いとことか醜い部分も全部ひっくるめて俺が受け止めるから。」
雄一が優しく詩音を抱き寄せる。
「俺、ケンカ弱いし、ヘタレだしビビりだけど、詩音のことは弱いなりに命に代えても守るから。何も心配すんな。」
優しくそう言ってくれた雄一に抱きしめられながら雨の音を聞いていたら、いつの間にか安心しきって眠りに落ちていた。