君が照らしてくれた道
□堕ちたシンガー
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仕事の後、坂本に約束のライブに連れて行ってもらった詩音。
ライブ終わりに食事をし、坂本の車で送ってもらう途中だった。
車はその途中で小さな高台に停まる。
「坂本さん?どうしたんですか?」
「見て。前。」
詩音が言われた通り視線をフロントガラスの向こう側へ向けると、目の前にはキラキラ輝く夜景が広がっていた。
「うわぁ!キレイ!」
「だろ?」
目を輝かせた詩音を見て坂本が微笑む。
「疲れ取れたか?」
「はい!ありがとうございます!」
笑顔で答える詩音の右手を、坂本の左手が包み込んだ。
驚いて目を丸くする詩音。
「ここはね、俺の秘密の場所なんだ。」
握った手に力が込められる。
「たまたま道に迷った時に見つけた穴場スポット。疲れた時によく来るんだ。」
「そんな場所に連れてきてもらってよかったんですか?」
戸惑ったまま詩音が尋ねる。
「詩音に見せたかったから。秘密の場所、詩音と共有したいなって思ったんだ。」
更に坂本は詩音の手を強く握り直す。
詩音は俯いたまま小さな声で問いかける。
「他に連れて来たい人とかいないんですか?彼女さんとかいないんですか?」
その質問に坂本は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに答えた。
「彼女なら、いないよ。」
少しだけ顔を上げた詩音の至近距離に坂本の顔があった。
少しずつその距離が詰められていく。
詩音がギュッと目を瞑って顔を背けた時、握られていた右手を解放した坂本の左手が頭に置かれた。
「ごめん。突然すぎたな。」
目を開けた詩音の前には、運転席のシートに体を戻した坂本が笑顔でいた。
「俺にとって、詩音は特別だから。詩音にとってもそうでありたい。」
「あたしは…」
憧れの人が自分に好意を寄せている。
それなのに詩音は戸惑っていた。
「さて、帰ろうか。明日も仕事だろ?」
そんな空気を変えるように明るく言って車を出す坂本。
マンションの近くで降ろされた詩音は、何が起こったのかまだわけがわからないまま、部屋に着くまでボーっとしていた。