君が照らしてくれた道

□忘れられないから
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仕事が一段落した竜也は車に乗り込み伸びをする。

竜也の実家は街の小さな電気屋で、竜也はその跡取り息子だ。
今日はお客様の家のテレビ配線を頼まれ一人外回りをしている。
午前中の仕事を一件終えて、昼休憩を取ろうとしていたところだった。

短髪の黒髪に作業服がよく似合う。



この髪型にしたのはごく最近のこと。
それまでは栗色のふわふわしたボブのような髪型だった。

キレイな顔立ちのせいか中学の頃から女の子に間違われることもよくあり、高校の時は制服がズボンなのにも関わらず電車内でチカンにあったこともあった。


ある日の満員電車で尻を触ってきたオヤジをキッと睨んで文句を言ってやろうとしたその時、隣に立っていた雄一がそのオヤジの腕を掴んで掲げ、「この人チカンです!」と大声をあげた。
端から見れば雄一がチカンにあったような誤解を受ける行動だった。

チカンのオヤジは気まずそうに次の駅で慌てて降りて行き、その一連の行動から怒りを通り越して可笑しくなった竜也も、いつもの駅で降りると雄一と一緒に爆笑した。


中学の頃から雄一とつるむことが多かった竜也だが、この時雄一のことを一番信頼できる相手だと確信した。

普段はヘタレのくせにいざとなるとぐっと男前になる雄一のことを密かに羨んでいた。



今までは作業する時はボブくらいある髪をゴムでまとめたり、ちょんまげみたいに頭のてっぺんで結んだりしていたが、最近では責任ある仕事を任されるようになり、一人で外回りすることが殆どで、それをきっかけに今の髪型にした。

すっかり男っぽくなり少し後悔もしたが、この髪型にした直後詩音に「カッコイイ!」と絶賛され頭をツンツン触られたので一気に気に入った。


詩音は竜也のお気に入りだった。
いつもニコニコしていて可愛い。
ただ恋愛感情とはちょっと違う。
大好きな親友、というのも少し違う。
“お気に入り”という言葉がしっくりくる。

それに詩音に相応しいのは自分ではなく雄一だと思っている。
信頼している雄一と大好きな詩音がいっぺんに幸せになってくれれば言うことなし!と思う。

雄一が詩音のことを未だに想っていることは知っているが、だからと言って無理にくっつけようとは思わない。
自分が他人の恋愛に口出しするタイプではないというのもあるし、そういうことは運に任せるべきだと思っているからだ。
本当に運命なら時期が来ればそうなるだろうし、いつかその時が来るはずと竜也は確信していた。

もちろん詩音に彼氏がいた時期もある。
雄一も詩音を諦めようと彼女を作ったことだって何度かあったのを知っている。
だけど結局は諦められずにいる雄一に疑問を持ったりはしない。
詩音はそれくらい魅力的なのだ。美人だとかそういう意味だけではなく、人としても。
だから同性からも好かれる。


竜也も詩音に言い寄られれば文句なしにOKする、と前は思っていたが…

竜也には現在大切にしている恋人がいる。
彼女が運命の相手だと確信しているので他に気移りすることなんて考えられない。



そんなことをぼんやり考えていると、竜也の腹の虫が鳴った。

車をコインパーキングに停め、昼食を摂ることにする。


作業服で歩くのは少し抵抗のあるオシャレなお店が並ぶ路地を歩きながら、この格好で入るならやっぱりラーメン屋か?とメニューを考えていた。

とある一軒の小洒落たイタリアンカフェの横を通った時、見覚えのある顔が店内にいるのが見えた。

「めい。」

向かえには一人の男性。
竜也はこの間めいから受けた、「彼氏が出来た」という報告を思い出した。

ちょっとからかってやろうと店内へ入ろうとしたその時、死角になっていた男性の顔が見え、竜也はその場で固まり動けなくなった。

「孝…之…」

そんなはずはない。
孝之は高2の時に死んだはずだ。

そう言い聞かせるがその顔は孝之そのものだった。
だがそれはもちろん孝之本人ではない。
しかしソックリで片付けるにはあまりに似すぎている。

どういうことだと考えるがわからない。
その場で動けずにいると店のドアが開き店員が出て来る。

「どうぞ。すぐお席ご用意できますよ。」

「いや…」

竜也は首を振りやっとのことでその場を立ち去る。


頭を整理しようとぐるぐる歩き回っているうちに時間は過ぎ、結局コンビニでおにぎりを買って車の中で食べた。

考えても考えても答えは出ず、竜也は次の仕事場へと向かうのだった。
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