君が照らしてくれた道

□笑顔に隠して
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「はぁ〜疲れたぁ〜。」


深夜3時。
当日分のレコーディングを終えマンションに帰宅し、シャワーを浴び終えて濡れたままの髪でベッドへ倒れ込む。


明日も朝から音楽雑誌の取材、写真撮影、それが終わったらまた夜中までレコーディングの続き。

レコーディングが全て終わったら、ジャケット撮影やメディア出演。

そして、アルバムを引っ提げた初の全国ツアーが始まる。
小さなライブハウスだけど、あたしの夢だったツアー。
嬉しいけど、相当ハード。


「何時間寝れるかな…」

独り言を呟く。


あの頃は楽しかったな。
孝ちゃんがいて、隆ちゃんがいて、たっちゃんがいて、忠義がいて…

孝ちゃん…
そういえば孝ちゃんに言われたことあったっけ。



いつもの空き教室にたまたま2人きりになったある日。


「詩音、ありがとな。」

「どうしたの?急に。」

「俺さ、あんな楽しそうにしてるめい初めて見たから。」

「そうなの?」

「詩音のこと話す時とか凄い嬉しそうで。あんな喋んだってビックリした。」

「でもめいとは1回カラオケ一緒に行ったことあっただけでそんなに話もしなかったのに、何でだろ?」

「めい見抜いてたんだな、詩音の歌の魅力。」

「魅力なんて。」

「プロになるべきだよ。プロになろう!皆で一緒に。」



あんなことがなかったら、今頃あのバンドでデビューとかできてたのかな。
辛いことも5等分できて、嬉しいことは5倍になったのかな。

あたしにギターを教えてくれた孝ちゃん。
曲の作り方を教えてくれたたっちゃん。
「オマエは天才や!」っていつも持ち上げてくれた隆ちゃん。

あれからもう10年かぁ。

絶対、ステキなバンドになれたのに…



でも文句なんて言えない。
好きなことやってるんだから。
それで食べていけてるんだから。
歌うことを諦めきれなくて、一人でもやっていこうって決めたのはあたしなんだから。
自分で決めたことなんだから。

辛いとか言っちゃいけない。
好きなことやって生きていけてるのに贅沢言うなって思われちゃう。
我慢しなきゃ。
頑張らなきゃ。
笑顔でいなきゃ。
悟られないようにしなきゃ。
泣くのは一人の時でいい。
怒りはぐっと堪える。
一人で抱えるべきことなんだ。



「大丈夫か?」


「体とか、色々…」



ふとさっき雄ちゃんに電話で言われたことを思い出す。

雄ちゃんて、昔からそういうことに妙に敏感で、何でも見抜かれてそうで怖かった。
でも好きなことやってんのに、「辛い」とか「苦しい」とかって、口に出して言うことじゃないと思うから。
顔にだって出すべきじゃないから。
だからいつも笑ってれば誤魔化せるって。
でも雄ちゃんにはそれすら見抜かれてそうで、だんだんあたしは雄ちゃんの目を見れなくなっていった。
雄ちゃんには、本当の顔とか本音とか、ぶつけてもいいのかなって思ったこともあったけど、何かが壊れそうで怖い。
小さい頃から一緒にいた俊ちゃんにさえ見せてない姿を、雄ちゃんに見せるなんて、何かが変わってしまいそうで、怖い。



そんなこと考えてたら、いつの間にか眠ってた。
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