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□REDO
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悲しげな足音を
冷たく濡らすのは
何も言わずに降り注ぐ








Rain














ジャンと喧嘩した。
原因なんて今思えば私のちょっとしたわがまま。
仕事が入ったって言われたんですよね
今日は1日オフのはずでした。
ここ数ヶ月こういう時間がなくて、
ジャンが家デートで悪いけどと言ってきてくれたときは、
飛び跳ねるぐらい嬉しくて、
ずっと今日を待ってたのに。
わざわざジャンが休みを取ってくれて。



なのに、無残にも携帯にかかってきた電話が、
私からジャンを奪おうとしたんです。
彼の仕事を理解しなくちゃいけない
そう分かっていたのに…


『ジャン?携帯なってますよ?』

「あ?ほんとだ。もしもし…あぁ、アルミン…」



今は上司で昔は大学の同級生だったアルミンからの電話。

話の内容なんて聞かなくてもわかる。



「あぁ、わかった…ん…じゃぁな」

『…アルミン?』

「ああ。サシャ…わりぃけど…」

『行くんですか…?』

「…ごめん」

『…つも…そうですよね…』

「サシャ?」





『いつも…!いつもそうですよね!久しぶりに会えるって言うから楽しみにしとったのに……!」

「わかってる…けど」

『ジャンは…私のことなんか好きじゃないんですね…』

「は…?おま…何言って」

『もういいです!ジャンなんて知らない!」










携帯も財布も持たず、
勢いだけで家を飛び出してしまった。
近所の公園に目が止まり、ブランコに座ってみる。



…なんで、あんなこと…



でも、久しぶりに会えるの嬉しくて。
なのにこんなのって…
勢いに任せて色々酷いことを言ってしまったと、後悔した。


考えても考えても、思いつくのは後悔ばかり。
ジャンだって、好きで仕事入れたわけじゃないのに。







どんどん気持ちが落ちていって。
その状況を表すかのように雨が降りはじめた。

いっそこの雨に溶けて消えてしまいたい。





『…』





雨に打たれているのに、
そこから動く気力もなく、
しばらく考えたままその場に居つくした。




けれど、所詮は人間。
限界は訪れる。
雨により体温がどんどん奪われ、
視界が歪んだと思うと、私はそのまま意識を失った。








『…ん』





目を覚ましたら見慣れた天井。
微かに香る石鹸の香り。
着替えさせられた自分。
わずかに開かれたドアの隙間から差し込む一筋の光が、やけに私を落ち着かせた。








『ここ…家…』








言葉と同時に開くドアの音。
背後に光を背負った人間の表情は分からない。
けれど、あの人以外ここに居るはずが無い…
第一、私があの人を間違えるわけ無い。




ゆっくり、確実に近づいて来る人影。
そばに来て、立ったまま何も言わない。




無言が…辛い…





『ジャン…』






「バカ野郎っ!」







今まで、ジャンに本気で怒られたことなんて無かった。
今にも泣きそうなジャンの顔を初めて見た。







『ジャン…ごめんなさい』

「それは、何に対して謝ってんだ?」

『…我侭ばっかり言ったから…』




「俺は、そんなことに怒ってんじゃねぇ…」





私の頬にポツリポツリと雫が落ちてきた。




『ジャン…泣いてるんですか…?』

「俺…死ぬかと思った…お前がたお…れ…っく」

『ジャンが助けてくれたんですか?』

「俺以外に誰がサシャ救うんだよ」

『そうだね…』

「すげぇ…心配…したんだ…からなっ」

『ごめんなさい…』

「お前が体壊したら…俺なんにも考えられねぇ…」




話してるあいだ、ジャンはずっと泣いていて、
愛されてるんだと体中が感じていた。






『ジャン…』






寝転んだまま両腕をジャンの方へ伸ばすと、
ジャンも抵抗無く体を私の方へ傾ける。
ジャンの頭を抱え込み胸元に引き寄せると、
ジャンは安心した表情で擦り寄ってくる。




『ほんとにごめんなさい…色々』

「もう、あんな思いはごめんだ」

『…もうしないです』

「…サシャの心臓の音」

『音?』

「すげぇ落ち着く」





そのあとは。しばらく抱き合ったまま無言で過ごした。
でも、暖かい時間。









「サシャ…」

『ん…?』

「…俺甘えてた」

『え…?』

「お前基本わがままなんか言わないから、大丈夫だろうっていつも思ってた…けど、お前ずっと我慢してたんだなっ…」

『…わがまま言ったら…ジャンに迷惑かかるんじゃないかと思って…』

「そんなことねぇよ…」

さっきよりも強く抱きしめられた。
今度はジャンの心臓の音が聞こえた。
落ち着く。
ジャンの言ったことがわかった気がする。



「……………サシャ」

『ん…?』












「………………………好き」

『うん…』





「サシャは…?」


『私も…………好きです』











今日は今までで

一番最悪で、


一番最高の日だったかもしれない。















REDO‐やり直し‐

いつだってそうアナタは

優しく傷付けて

心を離してくれない







end.
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