short1
□日課
1ページ/1ページ
(注意:現パロ.夫婦)
まだ寒い冬の朝に、朝食とお弁当の準備を一人でしているときだった。
「っ.....!」
鋭い痛みが指先に走った。
そして、じわりと出てくる赤。
「久しぶり包丁で切ってしまいました....」
寒さのせいか、切った後痛みの感覚はあまり無かった。
絆創膏でも付けておけば大丈夫だろうという概念は定着しているが、包丁で指を切ると傷は浅くても血はかなり出るものだ。
ふと時計を見る。
ジャンが起きてくるにはまだ1時間近くあった。
「救急箱どこでしたっけね」
ある場所は知っているのに、寂しさと寒さを紛らわすための独り言。
救急箱を取り出して、左手の人差し指に絆創膏を貼った。
料理の再開をし、テーブルに朝食を並べているとドアが開いた。
「おはよう」
「おはようございます」
寝起きのせいかジャンの声も一段と低い。
沸いたポットのお湯を入れて、ジャンはコーヒーを飲んだ。
そして、テレビのスイッチを入れ、新聞を開きながらコーヒーを飲む。
結婚する前から同棲していたので、その頃からこの朝のスタイルは変わらない。
「早く食べないとパァン冷めますよ」
「何がパァンだよ....美味い」
「良かったです」
ジャンは必ず作った料理の感想を言ってくれる。ちゃんと正直に。
テレビではいじめで自殺したなど、朝から悲しくなるニュースだ。
かと思えば、次のニュースでは結婚した芸能人が妊娠したという芸能ニュース。
生憎、二人の間にまだ子は宿っていない。
まだ、結婚して3ヶ月だが、そろそろ子供も欲しいと思っている。
ジャンはどう思っているのかは知らないが、妊娠のニュースの時だけ画面を見ていたので、少しは気になっているのかもしれない。
程なくして、ジャンが出勤する時間だ。
玄関に見送るのも同棲している時からの日課だ。
「今日は早く帰ってこれると思う」
そう言うと、ジャンは私の額にキスをした。
これも日課。
「じゃあ、夕飯早めに用意しときます」
「ああ、また仕事が終わったら連絡する」
夕飯は何にしようか、朝からそんなことが脳内を巡る。
「サシャ、その指どうしたんだ...?」
眠気がなくなり細かいところに目が行き届くようになったせいか、気づいてくれた。
「朝、包丁でちょっとヘマしちゃって!」
「ふーん。大した怪我じゃなくて良かったな」
「そ、そうですね」
それだけか。ちょっとは心配して欲しいと思ったが、そんなのただの贅沢かと悲しくなった心を処理した。
すると急に、ジャンがサシャの左手を取り、人差し指に優しくキスをした。
「なっ」
瞬間、顔が火照るのが自分でもわかった。
いつもとは違う出来事に対応できないらしい。
「たまには、違うところにキスするのも良いだろ?」
口をパクパクさせるサシャとは対照的に、ジャンは余裕な顔だった。
それに少し腹が立ったサシャは、強引にジャンを反転させて、玄関から出ていくように押した。
「いっ、いってらっしゃい!!」
「お、おいサシャ」
ジャンが玄関から出たのを確認し、すぐさまドアを閉めた。
サシャはその場に座り込む。
朝、切ってしまった人差し指のおかげでこんなことになるとは思わなかった。
不意打ちはずるいと心底思った。
「ジャンのくせに」
嬉しさ反面、悔しい。
今日の夕飯はジャンの大好きなオムライスを美味しく作ってみせようと息込んだサシャであった。
あとがき
ほのぼのとしたのが書きたかった。
あんまりキュンキュンできないシチュエーションですいません。