ふるえる夢
□第3夜 それでも君を
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「さっきはごめんね☆えーと、ジャマイカ君!」
「あ、いえ…。」
タンタンとテンポよくまな板を叩く音が静かな夜に響く。
「浮気モンのあのバカ男が帰ってきたのかと思っちゃってさ☆思わずアドレナリン全開になっちゃったよー。」
軽快だった音に濁点が付いて俺のまな板までガタガタと揺れる。
みじん切りをサクサクこなす包丁だ。
凶器と化したらと思うと背筋に冷や汗が伝う。
「それにしても包丁使うの上手いね。普段料理してるの?」
「あ、うち実家がラーメン屋なんです。仕込みは手伝ってるんですよ。」
「すごーい!」
カラカラと笑う彼女は美咲さんというそうだ。
先程までの殺気が嘘のようにあっけらかんとしている。
マスクのせいで今は笑う目元しか見えないが、その月明かりを宿した瞳はドキリとする美しさがあった。
「あの…。」
「ん?どうかした?」
「気を悪くしたらすみません。美咲さんってその…私キレイ?とか聞く人なんですか?」
タン…と包丁の動きが止まって美咲さんの瞳が大きく見開く。
微動だにせず見つめ合うこと数秒。
地雷を踏んでしまったのだろうかと鼓動が早くなる。