みじかい夢

□おまじない
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「おい真田。」

「何ですか先生。」


放課後、部活に行こうと帰り支度をしていた時だった。
サンダルをパタパタ鳴らしながら訝し気な顔をして担任の教師が近付いてくる。


「今日の歴史のテストでだなぁ。お前の名前の答案用紙が2枚あったんだよ。」

「2枚…ですか?」

「あぁ。まぁ文字と点数を見ればどちらがお前かは一目瞭然だったがな。」


そう言って豪快に担任が笑い飛ばしていると、廊下からものすごく豪快な足音が近付いてきた。


「先生!!」


スパーンと引き戸をコントのように開き息を切らしていたのは、クラスメイトでありマネージャーの名無しさんだった。


「名無しさん!!廊下は走るなと何度言えば分かる!たるんどる!!」

「ごめん真田。緊急事態だったの。」


弾む息を落ち着かせて顔を上げた名無しさんは、俺と担任と彼が持っている2枚のテスト用紙を見て金魚のようにパクパクし始めた。


「せ、先生。あの、その。そのテスト…」

「お前の名前の答案もなかったし、点数からしても名無しさんだろうとは分かってたよ。」


赤くなった名無しさんはまさに金魚のようだった。
ビー玉を散りばめたガラス鉢に閉じ込めてヒラヒラと舞わせてみたい…いや、俺は何を考えているのだ。


「分かってるなら真田じゃなくて私に言ってくださいよ!点数最悪なのバレたら殴られるんですよ!?」

「さすがに女に手は挙げん。それより何故お前は俺の名前を書いたのだ?」


担任からテスト用紙をひったくり走り出した名無しさんを俺は条件反射で追いかけた。




「名無しさん、真田は鈍いから頑張るぜよ。」


サンダルをパタパタと翻して銀色のしっぽを揺らす影も教室を出て行った。

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