みじかい夢
□紡ぐ光
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「もう真っ暗!日が落ちるの早くなったね〜★」
「そうですね。」
日中はまだ上着なしで大丈夫だけれど、帰り道は自分を抱き締めたくなる。
その時フワリと首筋が暖かくなった。
「念のために鞄に入れておいたんです。使って下さい。」
立海指定の黄色いマフラー。
お香のような不思議な香りに包まれて一気に顔が熱くなる。
「ありがとう!もうすっかり冬だね。」
「そうですね。」
柳生が目線を空に向ける。
私もつられて顔を上げる。
「わぁ!すごい星キレイ!」
「冬のオリオン座もきれいですね。」
柳生が空を指でなぞる。
右上の端の星が特に瞬いている。
「あの星すごく光ってるね。」
「ベテルギウスですね。地球から640光年の距離にある割合に近い星ですよ。」
「1光年が光が1年に進む距離だっけ?」
「その通りです。あの星は640年前の光が今我々に届いているんですね。」
640年の星の光。
それより昔の星達もたくさんある。
なんだか宇宙に吸い込まれそうな気がして怖くなって、思わず柳生の右手を握った。
何も言わずに包んでくれる大きな手。この人に出会えて本当によかった。
「ねぇ柳生。」
「どうしました?名無しさんさん。」
「あの星が生まれた頃から、私たちが出会う事って決まってたのかな。」
柳生が視線を天に向ける。
「名無しさんさんにしてはなかなか難しい質問ですね。」
「えー?それってどういう意味?」
お互い声を出さずに笑う。
「正しい答えは分かりませんが…」
「私は名無しさんに出会えた事に感謝しています。」
偶然でも必然でも。
巡りめぐった今を精一杯に輝こう。
あなたと二人で。