長編

□2. 口角が上がる様を確かに見た
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舞が老人相手に道案内をしていると、今日も武田の怒鳴り声が小さな交番を揺らした。



「…どうしたんですか?」


頭に開いた本を乗せた武田と、怪我している額をなでる仙波。
どうやら仙波が本棚に頭をぶつけ、地図を武田の上にぶちまけてしまったらしい。


「貴様わざとか…!?」

「違います!!ここの交番、天井低いんすよ…。
せめて先輩と舞が、もうちょっと小さかったら…。」

「もうちょっとって何だ。社会的に抹殺するぞ、貴様。」


牛乳を飲みながら悪態をつきまくる上司に、仙波は半泣きでヒドいと返している。
プライバシーも何もないと抗議するが、狭く小さな交番では仕方ないこと。



「…貴様に守るようなプライバシーがあるとはな。」

「せ、先輩や舞のプライバシーも、そういうことですよ!!
先輩のロッカーにヒーポくんの頭部や、シークレットシューズありましたけど!」

「勝手に人のロッカーを見るな!!!」

「舞のロッカーだって…!」


武田に当てていた懐中電灯を、舞の方へと向けてくる仙波。
取り調べのような状況ではある。だがそんなことで怖じ気づく彼女ではない。



「……ナミくん、見たの?」

「何、あの大量のロウソクとか変な道具とか…?」

「……見ちゃったの……?」

「「………!?」」


表情と声色ひとつ変えず、仙波の方をジッと見つめる舞。



「…な、何かまずかった…?」

「あれ知り合いにもらったの。昔あの道具を使ってた人、みんな数日後に変死しちゃって。」

「「!!?」」

「それだけじゃなくて目にしただけの人も、1ヶ月以内に自殺したり殺されたり…。
頼むからどうしてももらってくれって、私が引き受けたの。でも……見ちゃったの…?」


あまりの恐ろしさに懐中電灯を落とし、仙波と隣の武田はガクガク震える。



「……なーんちゃって!オカルティアンジョーク!」

「や、やめてよぉぉぉっっ!!!」

「紛らわしい嘘を吐くな、バカタレ!!!」


お前が言うとシャレにならないと、胸をなで下ろす武田と仙波。
その時3人の無線が鳴り響き出動命令が出された。


『ハマチョー2丁目で、車両が駐車中の車両に接触した模様。』

「……近くだな。」

「俺行ってきます!」


武田の言葉と仙波が出ていくのはほぼ同時だった。
コートも着ずに飛び出していったのを見届け、舞はあらら…とドアの方を眺めている。


「コートないと寒いですよね。」

「ったく……何を考えてるんだ、あのバカは。
今のうちに交番だよりの点検でもしておくか…。」

「じゃあ私、立番してますねー。」

「頼んだ。」


自分のコートを羽織って交番の前に立ち、怪しい人物がいないか目を光らせる。
だが今は学生やサラリーマンばかり。何も問題はなさそうだ。



「…寒いな…。」



冷えきった空気のおかげか、今夜は星が綺麗に見える。
吐息が白く夜の闇を漂い、すぐに同化して消えていった。
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