儚い王女
□No.3 剣士とコックの恋
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ソフィアはルフィの特等席である、サニー号の頭の上に乗っていた。
現在、夜中の3:00。
いつもは特等席だ、と言って座らせてくれないルフィもさすがに夜中までは目が届くわけがない。
ソフィアは一度この特等席に座って、この広い海を大きく見渡したかった。
この海賊船が進む軌跡をこの目で見たいと思ったのだ。
不審当番を自ら引き受けたソフィア以外に甲板にいる船員は誰一人いない。
この船に乗って10日。
目覚めてから3日。
彼らと共に過ごした時間が短い割に、相当信頼されているようだった。
それは、彼女の人柄によるものだろう。
体育座りの彼女は、今にも消えてしまいそうに、悲しく海を見つめている。
その脳裏には、幼少期を共に過ごした兄の顔が浮かぶ。
「ソフィア!早く来いよ!ヴァンオンのくせに遅いんだよ!」
『待って、兄さん!』
馬鹿にしながらも、自分を待ってくれた兄。
意地悪をしながらも、自分に優しくしてくれた兄。
小さいながらも、誰よりも本物の愛情で自分を愛してくれた大好きだった私の誇りの兄。
「な、一人になって寂しくなったら歌え!俺が駆けつけてやる!」
『名前呼んじゃ駄目なの?』
「馬鹿野郎!名前呼んだら、俺達の正体わかっちまうだろ?」
『そっか!兄さんすごい!』
「わうっはははは!」
そんな楽しい思い出をふいに思い出す。
思わず涙がでそうになり、目頭を押さえる。
『歌えば…兄さんは、迎えに来てくれるのかな?』
目線を海から空に写す。
夜空には、たくさんの星が散りばめらていて、何とも言えない、美しい光景であった。
『ウォータムル・ステーム』
そう言って、水面に足を下ろそうとした瞬間。
「馬鹿!早まるなァ!」
『え?』
強く引かれる腕と反転する世界。
腕を強く引かれた為、海後ろに倒れそうになる。
サニーの頭からずり落ちたソフィアは、ぱちくりと目を見開いている。
ソフィアの腕を引いたのは、腰に3本の刀を差した、大剣豪を夢見る青年。
ロロノア・ゾロだった。
彼の表現は、とても驚いている様子だった。
ゾ「お前、今何しようとした!?この船で死ぬなんて俺が許さねェぞ!」
『えっ…と?』
ゾロは、どうやらソフィアが自殺しようと見えたらしい。
それも無理はない。
ゾロの目に映ったのは、船から飛び降りようとしたソフィアの姿。
ソフィアは、自殺しようとしたわけではないのだが。
『別に自殺しようとしたわけではないよ?』
ゾ「なんかするつもりだったのか?」
『うん。まぁね』
ゾ「俺が早とちりしちまったんだな」
ははっ、と歯を見せて笑うゾロ。
よくよく考えてみれば、ソフィアとゾロは話す機会があまりなかった。
船長と釣りをしたり、狙撃手の大冒険の話を聞いたり、女船員達の着せ替え人形になったり。
まぁ、いろいろと忙しかったのが理由だ。
それに加えてゾロは、見かければ必ずというほど昼寝をしているのもそうだ。
ゾロは、心臓の鳴り様と戦っていた。
ゾ「(くそ!あまり話したことねェ女と話すだけで緊張するって、俺はラブコックかァ!)」
1人でうんうん頭をひねらせている。
他者から見れば怪しいことこのうえない。
そんなゾロを見て、ふふっと笑うソフィア。
ソフィアの笑顔もゾロの熱を上げる一つであった。