歌音、

□理由は最初からなくて
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本当なら、彼女には言わないと決めていたんだ。




「ボクの中身はからっぽだ」




中身。そう、「ナカ」のコト。



ボクの「ナカ」は「ヒト」の様に細胞がある訳でも無ければ、「生きている」訳でも無い。
パソコンに繋いで見れば、文字列が並び、それがずらずらと何行にもわたって並ぶ。



はっきり言うと「人間」…「ヒト」に
程遠い、ただのロボットだ。
姿こそは「ヒト」に見える。けれど、皮膚や髪の毛も全て、…全て無機物。
「ヒト」本来が持つ「温かさ」には絶対に届かない。
当たり前だ。ボクの「カラダ」は外見も中身も言ってしまえば全て「ガラクタ」。
作り物の「温かさ」でしかないのだから。



血だって「ヒト」の血の成分が含まれているだけの、ただの赤い液体。
赤血球や白血球なんてモノは多分含まれてない。



心臓もボクの「カラダ」では無いモノに等しい。
有るのは、ボクを作った「ハカセ」が念の為にとデータに入れた心臓の拍動のみなのだから。




…ほらね、ボクの「カラダ」は「ガラクタ」と、膨大な「データ」。
それからニセモノの「ヒト」の「温もり」と、申し訳程度に含まれた「ヒト」と同じ成分。




ただの、「ヒト」になり損ねたロボットだ。




歌うためにだけ作られた「美風 藍」。…「ボク」という存在。
シャイニング事務所の内情でも、特にトップシークレットとされた「ボク」の秘密。




……彼女に言ってしまって、良かったのかな。




隠されたボクの秘密。
バラしたら間違いなくシャイニングは彼女を社会的に抹殺するだろう。
作曲家として輝いている彼女に、一歩間違えたら即作曲家を辞めさせられるようなコトを言って良かったのか。




いや、その前に何故ボクは彼女にこの話をしたのだろう。




彼女はボクの曲を作曲して、ボクはそれを歌う。
ただのギブアンドテイクの関係だった筈だ。



こんな簡単なコト、すぐに分かる筈なのに。
…何かのエラーかな。最近、仕事が忙しくてメンテナンスに行っていなかったから。



突然告げられた「ホントウ」に彼女はどう思っただろう。
…目の前に居るのはロボットだなんて、架空のオハナシも良いところだ。



ゆっくりと目を伏せた。



変な感じだ。
彼女の顔を見るのが酷く「怖い」。
こんな「感情」、ボクに埋め込まれていたなんて、知らなかった。




(ボクはユズに嫌われたくないんだ)




すぐに分かるコトだったんだ。



「ヒト」は親しい「ヒト」と秘密を共有したがる。
その意味はボクには理解し難いコトだったけれど。
何となく。…何となくだけれど、分かった気がする。



「ヒト」は一人で生きていけない。
支え合わないと生きていけない、脆い生物だ。
「秘密の共有」も生きていくために必要なコト。
それだけじゃない。無機的な思いじゃなくて、人間らしいコト。



「好奇心」と「信頼」。



「信頼」している「ヒト」に「ハナシ」をしたらどうなるか。そんな「好奇心」。



…納得した気がする。



ハカセはいつの間に、こんな感情のデータをボクにつけたんだろう。




でも、今の気分は悪くない。




だって。




「信じるよ」




ふわり、と彼女が笑った。



酷く穏やかな声がボクの耳に響く。



言った理由も、ボクがソングロボットなのも、どうでも良い。




「一緒に生きよう」




彼女がボクに寄り添ってくれる。




ボクはそれだけで”幸せ”だ。







理由は最初からなくて




冷えた風が吹いた。




寒い冬は、もうすぐそこだ。





*_

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