作品群

□fate/EXTRA〜狐の少年と紅茶の奮闘記〜
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一回戦 開始

「っ……ん……」

身体に重みを感じながら瞳を開ける。

それは、知らない白い天井。これなら、知らない天井だ。と呟いても『私』は悪くない気がする。

「……あれは、夢?」

あの白い髪に浅黒い肌の、紅茶のような青年に引かれた右手を握り、開く動作を幾らか続ける。

その手の感触は消えていたが、右手に刻まれた文様───確か令呪だったか───が存在するから肯定する材料は存在している。

しかし、だ。その肝心の人物はどこに消えたのだろうか?

暫く辺りを見回してみるが、誰もいない。仕方なく、ベッドから降りると、嗅ぎ覚えのある匂いがした。

「おや、ようやくお目覚めかね。無謀で勇敢なマスターさん」

突然、『私』のいたベッドに座り込むカタチでいる人物がどこからともなく現れた。

その姿はまさしく、彼だ。

「……紅茶さん?」

「……誰が紅茶だ。私はヨーロッパ諸国で親しみのある飲み物では断じてない」

少しキレ気味に返してくる。

「まあいいだろう。キミの目覚めが聖杯戦争の本戦までに間に合ってよかったよ」

聖杯戦争。確か、あの時の神父のような声の持ち主もそう言っていた。

聖杯戦争を始めよう、と。

「聖杯戦争って、なに?」

「む……?聖杯戦争の参加者なら誰でも知っている……むしろ、知っていない人間なんていないと思うのだが……まあ、あれほど自分の知らない力で好き放題やったのだ。
多少記憶が錯乱していても仕方ないか」

そう勝手に一人で結論づけると青年は語り出す。

「聖杯戦争とは、まあ簡単に言えば文字通り聖杯を奪い合う戦争だな」

「聖杯?あのアーサー王物語の?」

「多少はその方面への知識があるようだ。結構。
この戦いで重要なのは英霊についての知識、英霊の力を引き出す為のマスター自身の力、いかなる状況でも大事なものを見失わない勇気だからな。
聖杯はそのアーサー王の物語そのまま、いかなる願いをも叶える願望機……そう思ってくれ」

「いかなる願い?それってどういう範囲で?」

「そうだな……一番簡単な例で言えば、魔力のみで存在している存在に肉体を与える……と言ったところか」

「し、死者蘇生までできるの!?」

これは驚いた。願望機とは世界において抗えない摂理すらも覆すことが可能なのか。

「ああ、すまなかった。説明が足りなかったな。
魔力体として存在しているもののみ、であるからして、つまりは誰も彼も蘇るわけではないのだ。
話を戻そう。そして、その聖杯は同時に世界の全てを観察し続けている演算装置でもある。
そして、その聖杯戦争に参加する資格を持った君達マスターが我々、歴史に残るサーヴァントと共に戦い抜く。それが聖杯戦争さ」

やはり、その聖杯とやらも万能ではないようだ。

そこまで聞かされると、行き過ぎた人間が行き過ぎた使い道をするかもしれない、という展開にはならなそうだ。

と、そこで一つ、疑問が浮かぶ。

「ねえ、キミもそのサーヴァントである以上はなんらかの偉業を成し遂げて死んだ英霊なんだよね?」

そう言うと、青年はふぅ、と肩を竦める。

「果たして偉業と呼べるかどうか……まあ、英雄と呼ばれたこともあったが、そこまで大層な者じゃないさ」

青年は暫し自問に耽ると、まあいい、という感じになった。

「それはまたの機会ということでだ。真名を明かされると聖杯戦争ではかなり不利になるから、ということにでもしておいて私の真名はいつか話そう」

真名……つまり、本当の名前ということだろうか。

ん?じゃあ私は彼をどう呼べばいいのだろうか?

「ああ、それと大事なことがもうひとつ。サーヴァントは過去に成し遂げた功績を踏まえて七つのクラスに分けられる。
剣の英霊、セイバー。
槍の英霊、ランサー。
弓の英霊、アーチャー。
騎乗の英霊、ライダー。
魔術の英霊、キャスター。
暗殺の英霊、アサシン。
狂戦士の英霊、バーサーカー。
私は今回、アーチャーのクラスを与えられている。
まあ、パターンによっては様々なイレギュラークラスが発生するが、電子演算から生まれるこの月の聖杯戦争にそれは関係ないだろう」

なるほど……アーチャーか。

「それではマスター。今度は私が君の名を聞こうか」

え?そのアーチャーって偽名なんじゃ……

「たわけ。それじゃ私はどうマスターと共にすればよい。
私は戦略的な意味で明かせないが、君はどうせわかってしまうんだから名乗ってしまえ」

あ……そっか。

「……竜胆。私の名前は、高町竜胆」

「リンドウか……随分と誠実さが出る名前……ん?私?」

またしてもアーチャーが考え事の世界へと旅立った。

「……マスター。失礼だが、マスターは男性か?それとも女性か?」

「私は男の子だよ。失礼なこと言わないでよ……って、こんな顔で言っても説得力ないね」

「……いや、失礼。先日キミは自分のことを俺と呼んでいたから、些か疑問に思っただけさ」

アーチャーはその姿を私だけに見えるよう霊体化すると、私に声を掛けた。

「さて、この保健室も公共の場なんだ。あまり長居をするとここを担当している者や他の使用者に迷惑だ」

「そうだね」

カーテンを開こうとすると、カーテンが一人でに開いた。というのは冗談だが、実際そう見えた。

「あ、高町さん、起きていたんですか」
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