作品群
□fate/EXTRA〜狐の少年と紅茶の奮闘記〜
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「───え?」
気がつくと、俺は知らない場所にいた。
「いやまて、落ち着こう。まずは自分の事からだ」
まずは俺の名前……俺は、高町竜胆。この月海原学園に通う十四歳で性別は……あれ?
「ちょ、ちょっと待て、アレが無くて胸が膨らんでるって事は俺は女か?いや、違うだろ、女のアレもないし。
ちょ、待て、俺ってじゃあ何者?」
ていうか、なんで俺、倒れてるんだ?
ええと、思い出せ。確か、今日は朝から変だったんだよ。
いつもなら親友の慎二に寄ってくる筈の女の子達が転校生のレオに向いていて、それで、そのレオが授業中に急になんかわけのわからん事言い出して、それでどっか行って、なのに普通通り、授業が再開されて……あーもう!考えれば考えるほど訳わからん!
『……ふむ、君も駄目か』
と、そんな時に一つの声が響いた。
この声は、覚えてる。確か、そのレオが不自然すぎて、追いかけたらレオが急に壁ん中入って、俺も入って、そしたらこの声が響いたんだよな。
『そろそろ刻限だ。
君の落選を以って、この予選を終了としよう』
予選?わけのわからん事を。
じゃあなんだ?今倒れてる俺はその予選とやらに負けて死ぬのか?
んだそれ。冗談じゃないっての。
目の前には倒れた男子生徒と、俺の代わりに変なのと戦ってくれた人形を壊した人形。
そこまで考えていると、何故か身体が重くなってきた。
起き上がるのも苦痛。いや、それどころか、こうして意識を保つのも苦痛だ。
ここで死ぬのか?
絶対に御免被る。
レオもあの時言ってた。 「お別れを言うのはまだ早いでしょう。貴方達とは理由もないのに、また会える気がする。ここは逢えて、こう言います。
また、今度」
何故か、その言葉が頭にきた。
レオが全部見透かしているような、レオは全部自分の思ったことになると思っているような。そんな気がして。
ここで死んでたまるか。死ねない。
「ぐっ、あ、ああああ……!」
どうせ死ぬfate/運命 だとしてもだ。なにもしずに死ねるほど、俺はつまらない人間じゃない。
「く、ああ……」
そうだ。戦って死んでやる。なにもせずに死ぬのは愚かだ。だから───
「……やれやれ、どうやら、私の心は君を放ってはおけないらしい。
私のような弱き者が呼ばれる事はないように、と祈っていたのだが……まさか自分から赴く羽目になるとはな」
どこからか、そんな声が聞こえた。
ハスキーな声、だが、耳に通りやすい、暖かな声をしていた。
目の前に視線をやると、そこには白いオールバックに浅黒い肌。赤い装束を纏っている男性がいて、それは正に───
「……紅茶?」
「誰が紅茶だ!」
紅茶だった。
「やれやれ……まさかこんなのが私のマスターなのか……?まあ、恒例の言葉になるが、これは言うべきだろう。
問おう、お前が私のマスターか?」
何と無くだが、わかる。彼が俺の救いで、彼が俺の相棒であると。
故に俺は答える。先程の極度の疲労を意に介さず。
「俺がお前の、マスターだ」
俺がそう答えると、青年は少しだけやれやれ、といった顔をする。
「些か迫力に欠けるが……まぁ、いいだろう。呼ばれてそれに応じたからには、全力でこの戦争を戦い抜こう」
青年に手を引かれ、立ち上がると、左手に鋭い痛みが走った。それがなんなのか見てみると、左手の甲によくわからない三画の模様があった。
それと同時に、身体全体に不思議な感覚を味わった。やけに頭と背中が重く感じるが、そんな事を考えている暇はなかった。
「むっ……人形風情が。この俺に牙を剥くというか。
マスター、ここは俺に任せてほしい。このアーチャー。必ずやマスターを勝利へ導こう」
青年はアーチャー、と名乗ったが、両手に黒と白の二つの短剣を創り出した。
黒と白の剣。それがなにか、懐かしい感じがしたが、今はそれどころじゃない。
人形がアーチャーに迫り、その腕を振るった。
アーチャーはそれを左の剣で受け止め、右の剣で薙ぎ払った。
「……ふむ、こんなところか。まぁ、相手が相手か」
アーチャーが剣をしまい、俺の下へと歩いてきた。
俺の人形が一瞬でやられたのに、このアーチャーはそれを一瞬で倒したんだ。
そんなアーチャーに、何故か気分が高揚して、彼の後ろを見た。
そこには、先程の人形がボロボロになりながらもアーチャーに迫る姿。アーチャーはそれに気づいていない。
まずい!
「ぬっ!なにをするマスター……っな!?マスター、一体なにを!?
やめろ!人間に敵うはずがないだろう!」
アーチャーを蹴り飛ばして人形の攻撃を受け、俺は───
倒れなかった。
それどころか、右手一本で人形を止めている。ついでにいうと、頭と背中の違和感が更に強くなっていた。
「な……そんな馬鹿なことが……」
わかる、戦い方が。右手を人形に向けて振るうと、何処からか現れた鑑が人形を完全に砕いた。
『……まさか、こんなカタチで出会うとは。
やはりこれも運命か……君の手にある模様、それは令呪という。サーヴァントのマスターとなった証しだ』
人形を破壊すると、何故か意識が遠くなってきた。
なのに、その声だけはやけにはっきりと聞こえる。
『使い方によってはサーヴァントを強め、或いは束縛する三つの絶対命令権。
まあ、使い捨ての強化装置と思えばいい』
どういう事か、それがするすると頭に入っていって、理解していく。
『ただし、令呪を失ったマスターはゲームの参加権を失い、死亡する。注意することだ』
とうとう声すらも遠くなってきた。だが、懸命に意識を保って、その話を聞く。
『まずはおめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。とりあえずは、ここがゴールということになる。果たして、君というイレギュラーはこの戦いにどんな変化をもたらすかな?』
イレギュラー?
『随分と未熟な行軍であったが、それが故に君の行動は蛮勇であった』
果たして、この人物は何者なのか?なんとなくだが、神父のような風に感じさせられる。
『私の素性は気にしなくていい。ただの定型文だ。
……それと、何者かから祝辞がとどいているよ。「光あれ」と』
最早限界だ。もう、意識を失うだろう。そんな中で最後に聞こえた言葉は……
───ではこれより、聖杯戦争を始めよう。───
───いついかなる時であっても、戦いで頂点を決めるのは人間の摂理───
───月に導かれた電子の世界の魔術師達よ。汝、自らを以って、最強を証明せよ───
そんな、長く、短い戦いの開戦の合図。