上手く懐柔されてしまったものだ…と、ベジータが複雑な面持ちになるのは決まって悟空と一夜を共にした後だ。









共に修行をするという名目で悟空と二人きり、何も無い荒野で一週間や二週間、泊まり込むことはザラだった。いつもボロボロで帰ってくるベジータを見かねてブルマがカプセルハウスを持たせてくれるまで、平気で何日間も外で睡眠を取っていた。お互いそこまで神経質な性格をしておらず、眠れれば何処でもいいという思考の持ち主だった。ブルマがお節介を焼かなければ、野生児よろしくな修行を繰り返していただろう。









お互いをどう思っているのか、二人は既に分かっていた。無論ベジータは最後まで認めはしなかったけれど。だって、誰が認められようか。ずっと目標だった、殺したかった相手を、愛してしまっていたなどと――









悟空も悟空で今まで抱いたことのない恋愛感情を持て余していたけれど、ベジータが欲しい、独り占めしたい、その想いだけでベジータにぶつかっていった。勿論、ベジータはそんなことを言う悟空を口汚く罵ってあしらった。しかしそんなことで揺らぐ悟空ではなく、しつこくしつこく何度もベジータを口説いた。





「好きなんだよベジータ。おめぇだけなんだ」





そのしつこさに根負けした形で、ベジータはとうとう悟空の手を取った。初めて交わした口付けがとても優しかったことを、あれから随分と経った今もベジータは覚えていた。









晴れて恋人同士になったと言っても、二人の関係はあまり変わらない。せっかく二人きりになってもやるのは修行ばかりだし、ベジータが憎まれ口を叩くのも相変わらずだ。ただ、そこに恋人らしい触れ合いが追加されるようにはなった。修行を終えてから、興奮状態が冷めないままにキスをして、激しく互いを求めるのが常だった。抱かれることに最初は抵抗を覚えていたベジータだったが、自分が悟空を抱くことを想像することが出来ず、結局今の状態に甘んじているのだった。










ベジータは悟空とは違い、「好き」だの「愛してる」だの、そんな直接的に好意を口にしない質だ。なので、付き合い始めてこの方、一度として悟空に自分の気持ちを伝えたことは無かった。その代わり…と言って良いのか分からないが、悟空からのキスもそれ以上の行為も、ささやかなスキンシップに至るまで、出来る限り拒絶しないようにしていた。それが素直じゃないベジータの、精一杯の愛情表現だった。




求められるままに従うことだって、プライドの塊のようなベジータからすれば耐え難いことだ。それを押し殺してまで応えるのは、やはり彼も、悟空を愛しているからなのだ。








愛しているから、応える。そんな考えに至ってしまっている部分が、上手く懐柔されてしまったと思う所なのだった。





「間抜け面晒しやがって」





自分の隣で、幸せそうにすよすよ眠る悟空の頬をつつき、ベジータは悪態をつく。すっかり夢の世界に浸ってしまっているらしい悟空は、ベジータの声に気付く様子も無く寝入ったままだ。随分年を食っている筈なのに、その寝顔はひどく幼く、何度も地球を救ってきた英雄の顔とは思えない締まりの無さだった。





こんなゆるゆるの奴に、どうして自分は絆されてしまったのだろうと、時折ベジータは考える。だがしかし、考えるだけ無駄だった。きっと自分達は成る可くしてこうなったのだ。この世でたった二人だけの、唯一無二の同朋。互いを惹き合わせたのは互いの中を流れるサイヤ人の血。悟飯やトランクス達混血児とは違う、純粋な戦闘民族の血。きっと初めて対峙したあの日から、二人は知らず知らずの内に惹かれていたに違いない。







それを思えば、こうして結ばれるに至るのが遅かったと思える程だ。しかしこれは双方に原因があるので仕方無い。ベジータはその性格故に悟空への恋心を長らく認めず、悟空はその鈍感さ故に気付いてすらいなかったのだ。立て続けに死闘を繰り広げたこと、悟空が七年もの間死者となっていたことも、原因には含まれるだろう。




魔人ブゥを倒し、安寧な日々が訪れたからこそ、この現状に腰を落ち着けられたのかもしれない。未だ慣れきれないし悟空に振り回されてばかりのベジータだが、本気で嫌だと思っていないのだからその時点でどうかしている。







心地いいなんて…本当に…。






「どうかしてるぜ」
「なにが…?」





闇夜に吐き出した筈の独り言に成された問い掛け。眠っているとばかり思っていた悟空が、いつの間にかその黒色の瞳を開いていた。まだ眠気は残っているようで、完全に開いているわけでは無かったが。





「寝てたんじゃないのか?」
「おめぇがなんか言ってっから…」





眠い…と欠伸を零して目を擦る悟空に、ベジータは「まだ寝てろ」と促す。





「まだ夜明けまで時間があるからな」
「んー…ベジータも…」
「寝る寝る。寝るから貴様も寝ろ」
「…うん。おやすみべじーた…」





舌っ足らずにそう言い、最後にベジータの額に触れるだけのキスをして再び眠りの世界に旅立っていった悟空。あまりの早技、そして唐突だったこともあり、ベジータの文句はぶつける暇も無かった。生々しく残った柔らかな感触だけが、ベジータの眠気を根刮ぎ奪っていった。





我に返り、顔を赤くしても、それをからかう唯一の男は夢の中だ。恥ずかしいやら腹立たしいやら、発散出来ない気持ちに侵食されたベジータは、しばらく枕に顔を埋めて悶えていたのだった。














そんな二人。
(ベジータ、なんか隈出来てっぞ?)
(誰のせいだと思ってやがる!!)



今更ドラゴンボールにハマった遅い(^q^) そして初のカカベジ。まぁまずはベタな話でいいかなって。頭いい文章なんて書けない。



ベジータのキャラを未だ模索中である。





栞葉 朱那

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