小説

□残酷な世界の光
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二千年後に期待を寄せて俺たちは死んだ。
死ぬ直前はとても怖かったけれど、豊かで幸せな世界に生まれ変われる、
そう夢描くと安心して死ねた。

そしてとても長く長く眠りについた。
俺は生まれ変われることができた。

周りには幼馴染のアルミンやミカサも居た。

それどころか104期のメンバー全員と再会を果たした。
みんながみんな記憶があるわけでは無いけれど幸せそうに笑っているところを見たら
それもそれでいいかななんて。

しかし、彼が居ない。

かつて人類最強と呼ばれ、自分と寝食をともにした愛しい彼が。
リヴァイ兵士長が。

彼に記憶があるのか、今どこに居るのか、何歳でどんな暮らしをしていたのか。
何も情報が無い。

なかば諦めていた頃俺はリヴァイさんに出会った。
25になり父の仕事を受け継ぎ俺は医者になった。

小さい病室に瞳を閉じ死んだように眠った彼が居た。
機械のおかげで生きていることが辛うじて認識できた。

清潔感のあったかつての彼の姿は見る影も無く病室は散らかっていた。
本やペン、スケッチブックなど絵を描くであろうその物が散乱している
その部屋の主は何でも声が出ないらしい。

「14号室のリヴァイさんか」

俺はこの病院の院長であり自分の父親であるグリシャから話を聞いた。
なんでもストレス過多で声が出せない状態らしい。

「彼は生まれつき体が弱い上に、母に捨てられ孤児院に居たとか・・・」

途中から父親の声など耳に入らない。
あんなにも強く凛々しい彼があんな姿になって生まれ変わってくるとは。
世界は残酷だ。

いつかのこの台詞を深々と痛感した。

(こんな世界なら・・・あの頃のほうが幸せじゃないか・・・!!)


「エレン・・・・絶望するだけなら誰にでも出来るぞ・・・」

父さんは数十枚重なった書類に目をやりながら真剣な顔でこちらを見た。

「父さん・・・・」

そうだ、昔のように出来ないならば今から始めればいい。
それが出来ないならせめて彼には幸せになってほしい。

そう決意して俺はリヴァイさんの部屋に入室した。

「こんにちは!今日からお世話になるエレンです!」

「・・・・・・・」

びくびくした様にこちらを一見し、スケッチブックに走らせていた手を進めた。
俺は少し距離を取りつつ近づいた。

「何を描いているんですか?」

覗き込むとスケッチブックをバンッと膝に置き、畳んでしまった。

「ごめんなさい!見ちゃいけませんでした!?」

「・・・・・・・」

「あ・・・点滴打ちますね・・・!」

そういうとリヴァイさんはすんなりと手を出した。
やはり週に4回行っていることだけあって抵抗が無いようだ。

「じゃあ失礼しますね〜・・・・」

腕に軽く触れると常人ではありえないほど低体温だと感じた。
以前のように太くて力強かった腕は見る影も無い。

それだけではない、シャツの隙間から見える胸も薄っぺらく
頼りない。

点滴が終わるとまたスケッチブックを手に取った。
何をあんなに一緒懸命描いて居るのだろう。

「リヴァイさん、よかったら俺もここに居ていいですか?」

にこっと敵意がないようにしてみたが彼は首を真横に振った。
そうですか、すいません!では明日。と俺は言い残して病室を出た。

覚悟はしていたが予想以上につらかったので俺は少しだけ泣いた。
それからリヴァイさんとの関わりは週に4回の点滴だけ。

少しだけ分かった事があるがリヴァイさんは決まって2つの物をスケッチブックに描いている。
一つは風景。
もう一つは自分の過去。
母親からの暴力、父親からの性的恥辱。

なんだか彼の悲痛な叫びが聞こえてきてならない。

そして週に一度カウンセラーの人が訪問してくる。
彼女の名前はかつての仲間、ハンジ・ゾエ。

客観的に見るとリヴァイさんはハンジさんには心を許しているようだ。
昔のことを本能的に覚えているのだろうか。
スケッチブックで筆談をする。

その光景を見るとまたどうしようもなく涙が溢れた。
休憩室で座っていると隣にハンジさんが座ってきた。

手にはコーラを持っていてそれを俺に差出し自分は缶コーヒーを飲んだ。

「エレン久しぶりだね!巨人の影響とか体に無い?・・・っと・・・その前に記憶あるかい?」

「えっ!ハンジさん覚えているんですか!」

「その反応ということはエレンも覚えているのか!」

昔のキャラは相変わらずだけど素直にうれしかった。

「いや〜それにしてもリヴァイは大変だねえ!」

「ですよね・・・はは・・・」

乾いた笑いを俺は漏らし現実に引き戻された虚無感に肩を落とした。
それをみてハンジが笑った。

「あんなにエレンエレンうるさかったくせにね!」

「え・・・・!そうなんですか?」

少し戸惑いつつも話を聞く体制をとった。

「うんうん!地下で初めて会ったとき一目惚れってwんで審議場で蹴っ飛ばして嫌われてないかとか
同期にケツ掘られそうだとかなんとかwww」

病室で大声で話すようなことではないけれどハンジは構わず続けた。
恥ずかしくて俺は顔を手で覆った。
背中をバンバンと叩かれた。それでもハンジさんは大爆笑している。
きっと落ち込んでる俺がほっとけなかったのだろう。
彼女も苦悩しながら生きてきたのだろう。


そう思うと辛いのは自分だけでは無いと思えてきて頑張れる様な気がしてきた。
こんな一瞬で俺をやる気にしてくるこの人には感謝してもしきれない。

「前も・・・」

「え・・・?」

「前も、馬鹿なあいつに心臓を捧げたんでしょう?」

胸にとんっと拳を当てたハンジさん。
それをみて兵士だった頃の記憶を思い出した。

そうだ、リヴァイさんに愛してもらった分、今度は俺がお返しするんだ!

「はい、今も昔もこの心臓はリヴァイ兵長に捧げています!!」

どんっと力強く心臓に拳を当てた。

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