小説

□120の愛の言葉
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調査兵団。
危険を顧みず、壁外に出て巨人を調査する組織。
死亡人口は他の兵団に比べると桁違いな数字である。

数年前に人類の希望と謳われた巨人化できる唯一の人類側の
人間。
彼の働きでこの世の全ての巨人は抹殺された。
人々は壁を超え己の好奇心に赴くまま世界を巡る。この素晴らしい
世界で、「人類の希望」もまた世界を回っていた。

世界に誰よりも関心があり、興味があった。
そして、「人類最強」と呼ばれ周りからの支持が圧倒的だった
兵士長も行動を共にしていた。

「俺はこれからどうすればいい?」

俺の存在価値は?
巨人を駆逐することでしか自分の価値を見出せない。

そう叫ばれてしまっては、お人好しの少年は困ってしまう。

それなら、俺と一緒に外の世界を探検しましょう。

その一言に二つ返事で了承し、今に至る。
毎日が新しい発見で楽しいことばかりだ。
もちろん二人はお互いに特別な感情を抱いているため一緒に
居られる、一緒に平和に生きられる。
それだけでとてつもなく幸せなのだ。

「兵長、見てください!!」

「おい、エレン俺はもう兵長じゃねえんだぞ。」

「あはは、そうでしたね次は海でも探しますか?」

「話を聞け。」

やはり15の子供、未知の世界に興奮して居るのだ。
瞳をキラキラさせながら地図を見ているエレンを傍から見るのも
リヴァイは幸せだった。

「あ.....あれ......」

しかしある日、エレンに異変が起きた。
真っ直ぐに歩け無いのだ。
最初のうちは足を怪我しただとか頭を打ったとか軽く考えていたが
いつまでたっても症状は良くならない。
よくなるどころか、悪化している。

近くの大きな街に寄り医者に診せると原因はわからないが、
頭にデキモノがあるようだ

壁が無くなってまだそれ程たっていないため治療技術などにも
限界があるのだ。

しかしリヴァイはそこの医者を信用できず、最も信頼出来る
かつての仲間、ハンジ・ゾエを呼び出した。

「ハンジ、至急エレンの体を見て欲しい。」

そう書いた手紙を出し、返事を待った。返事は思ったりよりも早く帰ってきた。
内容は、

「急いで行く。二日以内には着くよ。」

その手紙を見て安堵のため息をついた。
すぐそばにはベッドに寝かせているエレンが居る。
「へいちょう....おれ...だいじょうるなんれすか...?」

エレンは顔色が悪く、呂律が回らなくなってきたようだ。
最近は頭痛や頭重、嘔吐までしているのだから。

「大丈夫だ。もう少しでハンジが来るから.....」

リヴァイはそうエレンと自分に言い聞かせ、
俯いて黙った。

ハンジは次の日にリヴァイ達が借りている家に訪問してきた。
額が汗でびっしょりだった。
手には治療道具でも入っているのか、大きなバッグを持っている。

「やあ、リヴァイ。挨拶は後だエレンは何処にいる?」

「奥だ。」

リヴァイはハンジをエレンのいるところに案内した。
何やらハンジがエレンに質問しているが、到底理解ができなかった。

小一時間した質問攻めされて居たエレンを解放し、
俺を違う部屋に呼び出して話を始めた。

「エレンには恐らくだけど悪性の脳腫瘍がある。」

「あん?何だそれは、」

「言うなればデキモノだよ。」

「チッ.....何処ぞの医者と同じことを言いやがって。」

ハンジはバッグからペンと紙を出し、絵を描き始めた。
絵は脳に拳の半分位の大きさの円を描いた。
そこをペンで指した。

「脳腫瘍とは、脳の疾病のひとつで、頭蓋内組織に発生する腫瘍のこと。
脳腫瘍は脳細胞だけでなく、硬膜、クモ膜、頭蓋内の血管や末梢神経、
その他の頭蓋内に存在するあらゆる組織から発生する、いわゆる病気。」

とダラダラ小難しい事を話し始めるハンジ。
ハンジは今いる街の二つ隣街で大きな診療所を開いている。
そこでは最先端の医療技術と大変評判がいい。そのこともあってか
かなり専門的な言葉が多い。

「ハンジよ、その病気の治療法はあるのか?」

これだけ的確にわかるハンジのことだ。なんでもわかるのだろうとリヴァイは
心配など微塵もしていない。

「申し訳ないけど......今の所私の知る最先端の医療技術でも治療法はわからない。」

つまり、病気を放置して死を待つ、ということ。

「はあ!?てめえ、ふざけんなよ!?」

「私に当たってもしょうがないでしょう!?」

大声を出してリヴァイを黙らせたハンジ。
リヴァイの襟元を強く掴み、顔を直視しながら叫んだ。

「時代が時代なの...!私に出来る事なら何でもする!!でも方法がわからない。」

「....ハンジ.......」

「私達にエレンは救えない.....!」

リヴァイとハンジはしばらく黙った。自分たちの無力さを痛感したのだ。
しかし沈黙を先に破ったのはリヴァイ。

「あとエレンはどれだけ生きられる?」

ハンジはボロボロと涙を流し、上ずった声で話した。

「今までの前例だと、短くて2ヶ月長くて5ヶ月。いまのエレンの進行度だと
かなり短いと思う。」

「そんな.....奴はまだ15のガキだろ.....!?」

「うう....ぐすっ......!」



まだ、調べたい事がある、と言ったハンジとわかれ、
リヴァイは一人で待つエレンの寝室へもどった。

「あ、兵長どうれしら?おれ、なんかろ病気れすか?」

相変わらず呂律が回っていないがかろうじて聞き取れる、
リヴァイはエレンの座っているベッドの端っこに座った。

「へいちょう?」

小首をかしげるエレンを見ながらリヴァイは悩んだ。エレンの
病気の事を話すか話さないか。

「エレン....」

エレンの頬に触れるといつもより少し冷たい感触に酷く心を揺さぶられた。
まるで自分の方が病気のようだ。
リヴァイの手に上からエレンが手を重ねた。

「兵長、俺もう長くないんれすよ。」

「なんっ....!!!」

「何と無くわかるんですよ。自分の体れすから。」

リヴァイは瞳から流れる涙を止めることが出来ず俯いた。
それをエレンが抱きしめた。

「泣かないでください。兵長。」

「泣いてねえ....泣いてねえぞクソガキ....!」

「でも俺は幸せですよ。」

「はあ?」

エレンはリヴァイを離すと窓から空を見た。

「だって、俺の為に兵長が泣いてくれて、ハンジさんが死に物狂いで治療法を
探してくれて。
そして、死んで行った皆さんに会えるんですから。俺は誰よりも幸せ者です」

これが15歳の言う事だろうか。
献身的に人類に為に心臓を捧げ、死んで行った仲間のことを口にする15歳など。

リヴァイはエレンを再び抱きしめ震えながら言った。

「エレンよ、行きたい所とかねえか?」

「そうですね.....海に行ってみたいです。」

「じゃあ今から探してくる。」

エレンを離し、立ち上がるリヴァイ。
それを引き止めるようにエレンがリヴァイの服の裾を引いた。

「嫌です!何処にも行かないでください!」

俺を一人にしないで。

そう言われては何処へも行けない。リヴァイは再びベッドに腰掛けた。
優しくエレンの手を握り。

「あと、毎日俺を抱いてください。」

「なんだ?ヤりてえのか?」

「あはは、そうですね、直にあなたの温もりが欲しいだけです。」

「それだけか。」

「あと、毎日キスしてください。」

「ああ」

「毎日俺におはようって言って夜はおやすみって言って欲しいです。」

「それだけか?」

「はい」

「どれだけ欲がねえんだよ。」

エレンは少し笑うとリヴァイが拗ねたように顔をそらした。
それから、と付け足すとリヴァイはエレンの方を向いた。

「それから、俺を愛してください。」

「今でも十分愛してるぞクソガキ。やっぱ欲がねえな」

「いえいえ、人類最強の兵士長を独占なんて強欲ですよ。」

「そうか」

「ええ」

これから、残された時間を俺はエレンと何をすればいいのだろうと苦悩するリヴァイだが、考えは浮かばない。

しかし、エレンが死んだ時。その事実を受け入れられるのだろうか?
と考えているが、それも答えが出ないのだから、きっと不毛なことなのだろう。
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