恋する動詞111題 ごちゃまぜ

□48 きみがしんだ日。
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きみがしんだ日。


俺は、何してたっけ。

その日は、すげー暑い日で。
最高気温が40℃近くて。
ニュースが朝から騒がしかった。
俺は、というと昨日お前から貰った指輪見てニヤけてたんだっけな。
そしたら、ケータイにいきなり電話がかかってきて。
仁王からの電話にうきうきしながら出ると、声は仁王じゃなくて。

『丸井先輩!?
俺っす、赤也っす!
実は、仁王先輩が…っ



事故にあっちゃったんすよぉおお!』

俺の思考はすっかり停止していた。
ニオウガ、ジコ?
ソンナノ、マチガイジャ…
オレハ、ナニシテルンダヨ…
頭の中でその言葉が繰り返されて、ひどい頭痛を引き起こしていた。

『…丸井、先輩?
…っと、とにかくっ、柳生先輩の実家の病院に来てください!
それじゃっ』

早口でそう言うと、赤也は電話を切った。
俺は、一目散に家を飛び出した。
どうして、仁王が事故にあわなきゃいけないんだよ…!
お願いだから、生きてくれよ、仁王!!
走ってるこの時間が惜しかった。

案外早く柳生の病院についた俺は、病室を係の人に聞き出し、また走る。
病院では走ってはいけないというのがよくある話だが、今はそんなこと気にしてられなかった。

「仁王!?」
病室に入るなり、思い切り叫ぶ。
病室には幸村くん・柳・柳生・赤也がいた。
ジャッカルはトイレ、真田は売店へ飲み物を買いに行ったらしい。
そして仁王は…
ベットの上で横たわっていた。
大して大きそうな怪我もなく、強いて言えば仁王の頭が包帯でぐるぐる巻きになっているのが痛々しかった。
俺は急いで仁王に駆け寄ると、仁王の眉がぴくり、と動いた。
皆で歓声を上げると、仁王を覚ましていきなり、『…うるさい、のぅ』と呟いた。
思わず皆の前で抱きつくと仁王は心底驚いた顔で『離れんか!』と叫んだ。
俺はそれが仁王の照れ隠しだと思ってまだ抱きつくと『いい加減にせんか…っ!
一体、おまんら誰なんじゃ!』と怒鳴られた。
これにはびっくりして、身体を離す。

『…なんじゃ、俺変なこと言ったか?
変も何も、まず自分が誰だか分からんのにあんたらのことなんて分かるわけなかろう』

と言った仁王は、嘘をついてるようには見えなくて。
誰も、仁王を茶化せなかった。

医者曰わく、事故で頭を強く打ったので記憶が飛んでるらしい。
そんなことはどうでもよかった。
ただ、仁王の記憶が戻るか。
それが問題だった。
そして、暫く仁王は柳生が面倒みることになった。
何より病院は柳生の実家だし、仁王も柳生といると幸せそうだったからだ。
その理由は、俺だけが知ってる。
仁王はもともと柳生が好きだったからだ。
でも柳生は仁王の想いを受け入れなかった。
だから、仁王に『俺は柳生の代わりで良いから、愛して』と告白したら、なんとOKをもらったんのだ。
でも、仁王はきっとまだ柳生が好きだ。
柳生も仁王が好きだ。
多分、気持ちの整理がつかない状態で無理矢理答えを出したんだろう。
俺の目から見ても、柳生は仁王が好きだったのは明らかだった。
そんな二人がくっつくのも時間の問題だと思った。

秋になって、仁王の調子も割とよくなり、俺の事をガムの人と認識するレベルまで達した。
そして、柳生に告げられた。

『ごめんなさい…私、仁王くんが好きなんです』

ほら、やっぱりか。
俺は静かに首を縦に振ると、柳生は泣いていた。
どんなに罪悪感感じても、仁王との恋を貫きたかったんだな。
そんな愛の深さをまじまじと感じた。

俺のことが好きな仁王は、しんだ。
いや元々そんなの居なかったんだ。
仁王の目には、柳生しか移ってなかった。
柳生の目にも、仁王しか移ってなかった。

俺のこと覚えてる仁王はしんだ。
こんなに、こんなに悲しいんだ。

なぁ、もう一度愛してよ。 
俺は、代わりでいいから。 
俺の時間は、止まってしまった。
仁王がしんでから。

「…丸井、先輩。
もう、忘れましょうよ…!
俺が、仁王先輩の代わりになりますから…!」
 
…赤也。
優しくて、かっこよくて、可愛くて、面白い後輩。
そんな、後輩を、代わりに出来ない。
しかも…
もう俺は仁王以外に心揺らがないんだ。
いくら赤也でも…

「…丸井先輩。俺は丸井先輩を愛してます。
俺は丸井先輩を悲しませたりなんかしませんから…!
ぼろぼろにして、捨てたって構わないから…!
お願い、丸井先輩…っ」

きみがしんだ日。
きみのなかの、おれもしんだ。

おれのなかのじかんはとまったままで。
だれかがこのくうはくをうめれるわけじゃない。
だから、せめて。

さいごに、おれをころして。
なぁ、あかや。

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