恋する動詞111題 ごちゃまぜ

□37 Re: これもアイのカタチ
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俺、丸井ブン太は机に置いた鳴らないケータイを眺めていた。
夜の11時になるのに恋人からのメールは届かない。
またどこぞの女と浮気に精でも出してるんだろうか。
自嘲気味の笑みが零れた。
恋人は浮気をしている。
しかも、隠そうともしないし、言い訳もしないから、余計タチが悪かった。
別に浮気は構わない。
元々、俺達のこの関係が不毛なのだ。
赤也にとっては俺も、興味本意、いわゆるセフレとなんら変わらないだろう。
強いて言うなら赤也と一緒に住んでるから娼婦の方が相応しいかもしれないか。
はぁ、と溜め息が零れた。
そうこうしてるうちに時計は11時半を指す。 
おそらく今日は帰ってこないな。
赤也の為に用意したカレーを冷蔵庫に仕舞う。
数時間前までは確かに温かかったカレーも、既に冷め切っていた。
俺の心も、冷め切っていた。
なんで、俺は毎日一人でこんな切ない思いしなきゃいけないんだろう。
俺は、赤也への想いが今どこにあるのか分からなかった。

あったかいシャワーを浴びて、軽く湯船に浸かる。
すると、がちゃっと音がした。

「まーるいせんぱい♪」

あぁ、やっと帰ってきたのか。
赤也は酔っているのか、ご機嫌のようだった。
急いで風呂から上がると、赤也は顔を真っ赤にしながら、浮気をした証であろう首筋のキスマークを隠そうとせず、ただ俺に抱き付いた。

「さみしかった?」

酒臭ぇ。
吐き気を催しそうだったが、なんとか堪える。
最近赤也の仕事が上手くいってるからか、酒を飲んで帰ってくることが多くなった。
だが、だいたい俺は、酒は正直そこまで好きじゃない。
だからこうして赤也にくっつかれるのはあまり好ましくない。
赤也の腕を上手く避けながら、俺は微笑んだ。

「おかえり」

赤也は俺の反応に満足したのか、俺を押し倒した。
俺の寝間着であるパーカーのファスナーを下げる。
さっきまで他の女と抱き合って、キスして、睦みあって。
なのによく精力を保てるな。
俺は1回ヌくだけでもう十分なのに。
俺も年なのかな。
そんなことを考えながら、俺は、赤也と繋がりあった。

俺は、赤也が好きなんだ。
俺は、赤也に一目惚れしたから。
キラキラした笑顔で、心底楽しそうにテニスをする赤也に一目惚れしたから。
今は変わっちまったけど、きっとこれも赤也なんだ。
赤也の一部なんだ。

浮気症な赤也。
テニスが大好きな赤也。
不機嫌な時は俺のこと殴る赤也。
俺とヤってる時だけは、俺のこと見て、感じてくれてる赤也。
行為が終わった後、あどけない寝顔を見せる赤也。
俺の前で平気で浮気相手とくっつく赤也。
全部、赤也なんだ。
俺は、赤也が好きなんだ。

横にいるのに、遠くなっていく気がして、赤也を抱き締める。
赤也は反応を示さない。

そのまま、ずっと起きなくてもいい。
起きなければ、赤也が浮気相手と浮気することもない。

「赤也…愛してる…」

俺は赤也を抱き起こした。 
赤也の脇腹からは赤黒い血が溢れていた。
一瞬パニックになったが、あぁ、俺がやったのか。とすぐ落ち着いた。

ピルルル…
メールの着信音が鳴る。

それは赤也のケータイだった。
中を覗くと、それは仁王からであった。
仁王とは、大学を卒業してから会ってないな。
赤也とは連絡を取ってたのか。
早速内容を確認する。



20××/◯◯/△△
From 仁王先輩
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To 赤也
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Subject 詐欺師が通るぜよ
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ブンちゃんを妬かせたい作戦
は順調か?
ほどほどにしておくんじゃぞ。

ブンちゃん乙女じゃから、
勘違いするかもしれんよ。
ま、なんかあったらまた報告
頼むぜよ。

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…!
俺は、絶句した。
まさか、今までの浮気は、全部、嘘?
目の前が暗くなる。
俺の腕の中で冷たくなっていく恋人を見て、ぞっとした。

俺は、壊れてる。
こんなことして、赤也の未来を壊した。
なんて馬鹿なんだろう。
俺も、お前も。

俺は震える手で赤也のケータイを持つ。
そして、返信をする。
俺は、怖くなった。

これも、“アイのカタチ”なんだど言うことに。


20××/◯◯/△△
From 赤也
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To 仁王先輩
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Subject Re:詐欺師が通るぜよ
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…ごめん。
きっと、これも愛の形なんだ
な。

愛してる

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