恋する動詞111題 ごちゃまぜ

□53 待っての声が聞こえない
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「十神クっ、」

俺は、怒っていた。
理由は簡単だった。
苗木が、石丸と抱き合っていたからだ。
図書室は、俺が来る場所だと苗木なら分かっているだろうに。
ああそうか、見せ付けたかったのか。
『俺じゃなくてもいい』と。
裏切られるのは今に始まったことじゃない。
もう慣れっこだ。
拳を強く握りながら歩く。
走るのとなんら変わらないスピードで歩く。
後ろから苗木が追ってきているのは分かっていたが、スピードは緩めなかった。

「十神クン、あれは違うんだって!」

何が違うんだ。
俺の目で見たことが全てだろう。
今更言い訳なんて聞きたくない。
さらにスピードを上げた。

「十神クンは、なんか誤解してる!あれはっ、」

「うるさい。黙れ。」

苗木の言葉を一蹴する。
苗木はやや怯んだが、それでもまだ追いかけた。
俺は、そんな言葉が聞きたいんじゃない。
なんで、分からないんだ。

「…十神クン、妬いてるの?」

「うるさい」

だから。
なんで、そんなことしか言えないんだ。
俺は。


『待って』と呼び止めて、縋ってほしいだけなのに。

「…っ、待ってよ!お願いだから…!」

いつの間にか、苗木は俺の服の裾を握りしめていた。
…やれば、出来るじゃないか。
口元が緩む。

「なんだ?」

俺が少し上から目線で話すと、やれやれと言った目を向け、話し出した。

「あれは…図書室の掃除をモノクマに頼まれて、一人ですごい量の本を運んでたら石丸クンが手伝ってくれて…二人で本を片してたら一番上の棚の本が落ちてきて、僕に当たりそうだったんだ。
そしたら石丸クンが咄嗟に庇ってくれて…
そしたら十神クンが来たってことだよ。
…分かってくれた?」

苗木の説明に少し満足すると共に、安心した。
裏切った訳じゃない。
何故だか涙腺が緩みかけた。

「…そっか。
愚民にしては分かりやすい説明だったな。」

そう言いながら俺の服の裾を握りしめていた手を優しく包む。

「へ、ぁ、と、がみクン…?」

顔を真っ赤にしながら慌てる苗木は傑作だった。
そして、可愛かった。

「…今度からは気を付けろよ?
俺の居ない場所で怪我しそうになるな。」

命令だとばかりに握りしめた手の力を強くする。
苗木は、優しく微笑んで、

「…努力します」

と言いながら、俺の唇にキスをした。

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