恋する動詞111題 ごちゃまぜ
□8 気になるのは君のせい
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…いつの間にか。
俺の目線の先にはいつもあの人がいて。
意識して見てる訳じゃないのに。
目が離せなくて。
なんだか、不思議な感覚に襲われる。
ふわふわして、あったかくて、きゅんってして。
これは、病気なのかな?
なんで、“不二先輩”を見る時だけこうなるんだろう…。
拳をきゅっ、と握る。
なんだか、俺が乙女になった錯覚をしてしまう。
くるしくて、にがくて、てばなしたいのに。
その感覚に病みつきになっている自分がいる。
もしかして、俺は______________。
「どうしたの、越前。僕のことずっと見つめて。」
そこで、はっと現実に戻される。
気がつけば、目の前に不二先輩がいた。
鼓動が速くなる。
「…越前、大丈夫?風邪でも引いてるんじゃ…」
不二先輩の細い指が俺の額に触れた。
その行動に意味はないのだろう。
だけど、その行動一つで俺の鼓動をもっと、もっと速くするには充分すぎた。
「…熱、はないみたいだね。昨日夜更かしでもした?今日は早く寝るんだよ」
俺の頭をぽんっ、と撫で、不二先輩が立ち去ろうとした。
やだ。
いっちゃ、やだ。
俺は、自分でもワケ分かんないうちに、不二先輩の腕を掴んでいた。
「…どうしたの?やっぱり体調悪いの?」
心配した顔が俺の顔を覗き込む。
顔が、近くて。
俺の思ってることが全部バレてしまいそうだった。
いっそ、バレた方がマシだった。
「…あの、ね…」
もう、俺。
見つめるだけじゃ足りない…。
もっと、触りたい。
話したい。
愛したい。
「…俺、不二先輩が、す、き…です」
言ってしまった。
思わず不二先輩の顔から目線を外す。
不二先輩はどんな顔をしてるだろう…。
きっと、すっごい驚いてるんだろうな…
いや、いっそ軽蔑の表情を浮かべてるかも…
最後の選択肢だけは避けたいな、と心の中で呟いた。
すると。
「…ほん、と?僕のこと…好きなの?」
聞き返され、戸惑った。
返事の代わりに首を縦にぶんぶんと振った。
「…嬉しい…。越前、ありがとう」
そう言って、不二先輩に抱き締められた。
「っえ…」
きっと、今の俺は世界一間抜けな顔をしているだろう。
だって、信じられないのだから。
ずっと、俺の目線の先の人だったのに。
俺の真正面で俺を抱き締めてくれている。
俺の告白を、嬉しいと言っている…。
「…ずっと、越前が俺のこと見てるの知ってたんだ。
なんで見てるんだろって気になって…
気がついたら、好きになってた。
越前、俺のこと、ずっと見ててくれて、ありがとう。」
「…うんっ」
小さく頷くと、不二先輩は俺に微笑みかけ、ちゅ、と触れるようなキスをした。