テニスの王子様2
□カフカと死ぬまで踊りましょう
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昔々のお話です。
一人のキリスト教徒がおりました。
そのキリスト教徒には、恋人がおりました。
男、の。
キリスト教では同性愛が禁止されておりました。
見つかればやがて磔にされ、死刑になるでしょう。
なので、人目を盗んで性行為を行っていました。
慌ただしい日々でしたが、キリスト教徒はそれだけで幸せだったのです。
でも、神は見逃す筈がありませんでした。
ある日、キリスト教徒の家で身体を重ねていると、人がドアを突き破って入ってきました。
盗人です。
盗人はキリスト教徒の家に入ると、祭壇の装飾品を盗んでいたのでした。
「っ、お前…キリスト教徒じゃないのか…同性愛は罪だぞ!?」
盗人にそう言われ、頭が真っ白になりました。
自分も罪を行っている、と論破する余裕も無くなってしまいました。
「ブン太、逃げよう!」
恋人にそう言われても、身体は動きません。
数分後、盗人を追いかけた者によりキリスト教徒は捕らえられました。
ある夏の日のことでした。
「お前、丸井ブン太はイエス=キリストを信仰しておきながら、キリストの教えに逆らった!神を欺くとは何事か。これは許されざる大罪である!」
民衆のざわめきがより一層大きくなります。
キリスト教徒の刑罰を決められているのです。
「お前はキリスト教の神、イエス=キリストのように磔の刑に処す!死体はこの時節だ、鳥葬を行う!」
鳥葬とは、今もチベットの辺りで行われている葬儀の方法です。
死体の骨をばらばらに砕くと、烏や鷹がどこからともなくやってきて、死体の肉や骨を食していきます。
この頃は火葬は流通していませんでしたので、土葬か鳥葬が主流なのです。
特に、夏は死体が腐りやすいので、鳥葬がよく行われていました。
「何か最後に言い残すことはあるか?」
「…ありません」
キリストのように手首に杭を打たれ、じわじわ嬲り殺されていく、その姿を恋人は民衆の中から見つめていました。
キリスト教徒に関係を迫ったのは彼からでした。
自分はキリスト教徒ではないので何のお咎めも無かったのです。
目の前でキリスト教徒が息を引き取りました。
すぐさま棒のようなものでばしばひと死体を叩いて骨を砕かれるキリスト教徒を見て、恋人は思考が停止してしまいました。
民衆が見守る中、烏や鷹が死体を食べにきます。
ぶちっ。
ばざばさっ。
ぷつん。
ぐちゃ。
鋭いくちばしが肉を引っ張り、千切ります。
この腕の中で抱いていた身体を。
目も当てられないくらい凄惨なキリスト教徒の姿に、民衆は皆目を覆います。
でも一人だけ、ずっとその姿を見続けていました。
どろっ。
びちゃっ。
ぼとっ。
指が落ち、目玉をつつかれ、髪を毟られ。
愛していたキリスト教徒の姿は見る影もありません。
「あ…あぁ…」
恋人は何を思ったのか、突然唸り声を上げると走り出しました。
民衆はついに気が狂ったのかと思い恋人の走る道を開けていきました。
死体を見張る筈の衛兵でさえも、恋人に恐れおののき、見張りを止めてしまいました。
恋人は、キリスト教徒の元へと走りました。
ぶちっ。
ばさばさっ。
ぷつん。
ぐちゃ。
ぶちっ。
烏に啄まれてぶら下がっていた大腸を恋人が噛み千切りました。
民衆から悲鳴が上がります。
だって、人が人を食べているのですから。
恋人は大腸を音を立てながら食すと、次は大腸が無くなって丸見えになった腎臓に食らいつきます。
お腹の中に顔を突っ込んで、血が滴っているのに拭いもせず、ただひたすらに食べます。
「ブン太…ブン太、ブン太ブン太ブン太ぶん太ぶん太ぶん太ぶん太ぶんたぶんたぶんた…!」
そう叫びながら本当に狂ったように笑う恋人を見て、人々はそれを鬼だと思いました。
昔から、人を食らった人は鬼になる…そう言った言い伝えがあったからです。
恋人はキリスト教徒の二の腕をかじり、千切れた場所の血を啜り、指をじゅぷじゅぷと舐めながら爪を歯で器用に剥がしました。
それから頬肉をかじり、キリスト教徒の露わになった口の中から、歯を引っこ抜きました。
それから鷹に食われていた左胸にそっと唇を這わせます。
歯を突き出して、力の限り肉を引き千切ります。
そこには、既に使い物にならなくなった装置が埋め込まれていました。
恋人はその装置に手を乱暴に突っ込み、がしりと掴みました。
「…ッ、は、はは…」
精一杯力を込めて、引っ張ります。
ぶちぶちと血管が切れる音がして、手が真っ赤になります。
やがて最後の血管が切れ、外に粗末な粗末が出てきました。
「ブン太の心臓…あ、ははぁ…っ」
恋人は、それを、
ぐちゃっ。
口に含みました。
__________あれからキリスト教徒の全てを平らげるまで恋人は食べ続けました。
骨も皮も身も何もかも無くなった後、ふらりとその恋人は歩き出したそうです。
そのまま街の外れの方まで歩いていったとか。
その後、彼の姿を見た者は、誰一人としていません。
その街は、およそ12年後に滅びたとか。
めでたし、めでたし。