長い話
□story10
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次の日、目を覚ましたらニオウさんはいなかった。
目覚まし時計を見ればもう昼で、自分の身体がピークを超えていたことがはっきりと分かった。
もう少し寝ることも考えたが、せめて昼食をとるか。と台所へ足を向ければそこにはまだ温かいプレーンオムレツがあった。
横に添えられたメモには
『比呂士。昼飯作ったんで食べんしゃい。愛しとぉよ ニオウ』
と達筆で書かれており、思わず頬が緩んだ。
私は早速プレーンオムレツを食べることにした。
ニオウさんは案外料理上手だ。
プレーンオムレツはとてもとろとろで、頬が落ちるかと思いました。
また、作ってくれる。
なんて当たり前のように考えていた俺が懐かしい。
だって______________
彼は、もういない。
また、いつものように、バーへ向かう。
そしてからん、とドアを開ければニオウさんの声がする。
なのに。
今日はしなかった。
「いらっしゃいませ」
柳さんが声をかける。
私は一礼すると、疑問を唱えた。
「あの…ニオウさんは?」
その問いに対し、放たれた答えは、なんとも信じがたいことだった。
「…ニオウは…
__________バーを辞めた」
その時、鈍器のようなもので頭を殴られたような、そんな感覚があった。
目の前が暗くなる。
「…ぅ、そ」
「嘘じゃない、今日、本人から直々に言われた」
「そんな…!」
さっきまで一緒にいたのに。
私は他の客がいるのも忘れて必死になって焦る。
「どうして、辞める必要が?
ニオウさんは、ここの仕事を何より楽しそうにしてたのに…!」
柳さんは、何も言わなかった。
そして、今思ってみれば、私達の関係はこのバーという場所でしか繋がっていない、と思い知らされて泣きそうになった。