長い話
□story8
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「…柳生くん、そっちの資料まとめて!」
「柳生くん、◯◯株式会社様にお電話とお礼状を出して!」
「柳生くん、在庫まだあるか確認したら、明日のスケジュールの調整お願い!」
私は、多忙です。
なんでも、社長にとって嬉しい物件が3件程来たとか。
息子さんが仕事を取ってきたらしい。
その息子さんには悪いが、なんて余計なことをするんだと思った。
おかげさまで、ずっと働き詰めでろくに寝ていない。もちろんバーに行く余裕もない。
もう一週間程ニオウさんと会っていないのだ。
もうそろそろ、耐えれなかった。
「柳生くん、◯△株式会社様に菓子折りとお手紙を書いてくれ!」
「は、はい!」
はやく、ニオウさんに会いたいです。
「お疲れ様、柳生くん。
若いのに無理させてすまなかったね。
明日は休んでいいよ」
「…ありがとう、ごさいます」
仕事が終わった頃には、もう真夜中の二時であった。
眠い目を擦りながら家路へつく。
もうバーに行く気力がない。
そうだ、明日にしよう。
そう思い、重い足を上げた。
もう、限界だった。
家につくと、ケータイに一件のメールが届いていた。
中を確認すると、ニオウさんからであった。
中身は、『会いたい』とだけ書かれていた。
私は数分頭の中で眠気と相談してみたが、どーにも眠気が勝ってしまう。
ニオウさんに『明日じゃ駄目ですか』と送り返すと『今じゃなきゃやだ』と返ってきた。
こんなに自分の気持ちを前に出すニオウさんも珍しい。
私はふぅ、と溜め息をつくと、可愛い恋人のわがままを聞いてあげることにした。
「どうしたんですか、ニオウさん」
ニオウさんに待ち合わせ場所に指定されたのは私の家の近くの小さな公園でした。
公園の近くに住宅地はなく、人通りも少ない場所です。
そんなところに、一体何が…
そう思いながらスーツのネクタイを緩めた。
「…お久しぶり、やの」
ニオウさんは小さく笑うと、私に抱き付いた。
別に人がいる訳でもなかったから、そのまま抱きしめ返す。
「…寂しかったぜよ」
「私もですよ」
「会いたかったぜよ」
「私もです」
ニオウさんは私の胸板に顔を押し付けながら言う。
つくづく可愛い、と思いながら、頭を撫でた。
すると、ニオウさんがいきなり私の顔をじっと見つめた。
「…比呂士、今日、泊まってええか」
「…え?」
そして飛び出したのは、衝撃発言だった。
「のぅ、ええじゃろ。比呂士」
ニオウさんは座り込むと泣きそうな顔で私を見つめる。
とても可愛いから流されそうになるが、ぐっと堪える。
「どうしたんですかニオウさん。少し落ち着いてください」
「俺は冷静じゃよ!
…寂しくて、耐えられないんじゃ」
どんどん潤んでいく瞳。
“冗談でしょう”と言おうとしても、確かに1週間も放って置いたから、ニオウさんの思いも分かってしまう。
それが、私に言葉を詰まらせた。
「のぉ、比呂士…お願いじゃ…」
キスをせがむニオウさんに優しく口付けをする。
さすがに外でする勇気はない。
ニオウさんの腕を引くと、私の家まで連れて行く。
ニオウさんは嬉しそうな顔で私を見つめていた。